勇者になろう ~元魔王と文学少年~
@kanozi
第1話 契約だ
その少年は勇者になるのが夢だった。
少年が好む古代の伝承、
それにしてもまあ、物好きなものだ。
少年の名はチアキといった。勇者になることを目指してはいるが、これといった能力は持ち合わせていない。剣の才能はからっきしダメで、齢17歳にして近所の6歳児に敗北する。
魔法に関しては論外。何もないところから火の玉を繰り出したり、常温下で物を凍らせたりと、物理的現象では手が届かない面で人々を支えるのが魔法である。常人は魔法を行使するための
そんな彼に命の危機が迫っていた。
「ぐひょ……こんなっ……
チアキが住まう森林地帯に魔王の手下がやってきた。魔王とは、
薪や食料を求めて森の奥まで来た少年は、その魔王の軍とばったり出会ってしまったわけだ。
よほど人間に見られたくないものでもあるだろう。甲冑を身にまとった
「くそっ、俺より上手く扱うとは……!」
猛攻から走り逃げ、身に付けている黒縁メガネと顔を曇らせる。どうやらトカゲ達が剣と魔法を使いこなしているさまに悔しがっているらしい。
もう少し優秀な者を従えたかったが、このままでは私が
──重要なのは気概と意欲だ。
彼を私の
『死にたくなければ私の指示に従え』
(女の声……?)
頭に響く声に一瞬戸惑いの表情を見せたが、このまま逃げ続けても
『およそ10秒先、左方向』
(了解した、左折)
『およそ35秒後、右方向』
(右折)
『直進』
(カーナビ……?)
走りやすい地面を選択しつつ、最短で着くように
森にそびえ立つ巨木。その根本には大きな穴が開いている。
『駆け込め!』
迫りくる魔の手を
正直、賭けだった。今の私には、長い年月を経た封印がどこまで弱まっているかを調べる
現状で分かるのは、
少年の瞳には
『──契約だ』
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