第一回さいかわ水無月賞 佳作について
第一回さいかわ水無月賞にご参加いただき、誠にありがとうございました。
主題、開催時の宣言通り、「犀川の独断と偏見と気まぐれ」の結果、下記を佳作とさせていただきます。
汚染された都市で巨大ロボ娘に傘を借りた話/西園寺兼続
https://kakuyomu.jp/works/16818093078552426037
必ず戻る傘/大田康湖
https://kakuyomu.jp/works/16818093078947553854
(更新順(古い方から)・敬称略)
総評
西園寺さんの作品は、SFという好き嫌いが分かれそうなジャンルであるにもかかわらず、冒頭から前半部分を「一般読者へのつかみ」として使わずに、大胆にも後半の会話を盛り上げるための投資とすることで、「ぶ厚い世界観の作品」を築き上げました。尻上がりに面白くなっていくという、短編としては異例の展開をみせてくれた作品でした。
一方、大田さんはごくごくオーソドックスな展開の青春ものという王道で話を進めながらも、後半部からラストの話が、読者に想像力や解釈を求める内容となっております。どこにでもあるような話の内容と終わり方とは裏腹の、穏やかならぬ仕上がりになっております。
どちらとも、テーマ「雨」を上手く解釈・利用しながら、それを独自の作品にまで完成させた非凡さを評価いたしました。その栄誉を称えたく思います。(犀川 よう)
個別評
「汚染された都市で巨大ロボ娘に傘を借りた話」 西園寺兼続さん
さいかわ賞に限らず、恋愛や現代ドラマが多いような賞企画でSFを出品する場合、大抵は無難なところ――登場人物を取り上げてまずは読者を物語の中に没入させていく――と思うのですが、こまけえことはいいんだよ的に話を展開させていきます。最初読んだときは「マジか」と驚きました。
しかしながら、この「こまけえことはいいんだよ感」は、後半の展開をよりリアルで説得力があり、面白くするための投資でありました。主人公とロボットの「彼女」との会話がリアリティと非リアリティがまざっている面白さを漂わせて、この世界に降る深刻な「雨」なかで起きる悲劇とも喜劇ともいえる雰囲気を作り上げていきます。
極まったタフな環境下で呈される疑問などには答えなどありません。答えのない話の中でつまらないラストを迎えることがなかったのは、前半に投資した世界観のおかげであります。主人公と「彼女」との新しい「友情」を芽生えさせて絶望の世界に希望を見出した終わりは、読者に心地よい読後感を与えてくれるのです。
ありがとうございました。
「必ず戻る傘」 大田康湖さん
前回の卯月賞から作風を変え、涼、達紀の二人を主線とし、最後にひかりという女子を出すという、人物を絞って物語を展開されてきました。新聞小説や朝ドラ小説のような、太田さんの得意である写実的で精緻な表現をあえておさえ、青春ドラマに特化したのはすごいと思いました。またテーマである「雨」を傘を使って継続的にドラマの主体に置いているのも、芯を外してない感じがしました。実力者である大田さんの手堅い修正能力と高い創作能力を見せていただきました。
わたしが感じた本作の一番の魅力は『おまじない』の捉え方と、涼とひかりとの関係性が解釈によって色合いが異なって見えるところです。
おそらく多くの方がそうしたように、わたしも最初は読解力という屁理屈で、達紀が気を利かせて涼とひかりの距離を縮めようと画策したのではないかとか、あるいは、ひかりがすべて仕組んでいて、最後のシールもひかりのもとに来るように仕向けているのではないかとか、色々な「裏読み」をしてみたのですが、結局は答えは書いておらず、ひかりが涼の傘を単純に間違えて返すことができてホッとしているだけとも取れます。大田さんが意図してそう書いているのかは不明ですが、「読者が考えた話」と「読者が感じた話」の両立を為し得ているのが面白いとわたしは評価しました。
また、肝心な根拠になる『おまじない』についても具体的な説明はありません。非現実的で不思議な物ということ以外、何も説明がなされていないのです。ここが不明瞭な分、逆に読者が色々と想像する余地が生まれ、作品の魅力がより発揮されたと思われます。
いずれにしても、高い技術力があったからこそ成立するマジックのようなもので、一歩間違えば「よくわからない」という評価にもなりかねないところを、上手にバランスを取ってフィニッシュさせた大田さんの実力の賜物ではないかと考えます。
ありがとうございました。
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