第3話 堕とされた男
駅員室で芳之内は「アンタも尻を突き出してきたりしたじゃない!それじゃあその気になっていたようにしか思えないよぉ。だからこっちも触り続けたんだよ~」と主張したが後の祭りだった。
触ったのは事実なので言い逃れのしようがないのだ。
一方の大学生は犯罪被害に遭った人間とは思えないほどハキハキとした感じで「すごく嫌な気分ですよ!しばらく忘れられそうにないですね!」と精神的苦痛を感じたと主張。
「告訴するから覚悟しろ変態野郎!!」と脅してきた。
それはまずい。
痴漢の被害者に告訴されれば、たとえ相手が男であっても、有罪は必至。
そうなれば、今のNHK職員というおいしい身分を失うのは間違いない。
それを見越したのか、大学生の方は示談金を払えば告訴しないとしてきたが、提示してきた金額は数百万円と法外なものだった。
ずいぶんお高くとまった尻である。
しかし、山之内は職を失いたくないばかりに、泣く泣くその金を支払わざるを得なかった。
だが結果として、この事件はあっという間に露見して、翌々日には、マスコミ各社に報道されてしまう。
山之内はNHKで立場を失い、退職を余儀なくされた。
「はめられた!最初からそのつもりだったんだ!」
そう記者にまくしたてていた彼だが、相手側の悪意を立証することは不可能である。
高額の金をふんだくられた上に、ホモ痴漢として全国に名前をさらされて職まで追われたんだから、まさに踏んだり蹴ったりだ。
「悪女」の手口は男だって使えるのである。
「性悪男」の色仕掛けに引っかかった山之内は反省はしていないようだったが、後悔は十分すぎるほどしたことだろう。
世界にはどんな片隅にも危険な罠が潜んでいる。
2006年・総武線で起きたNHK職員のある不祥事~オレはハメられた!!男に痴漢をしてしまった男のむなしき言い訳~ 44年の童貞地獄 @komaetarou
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