第60話 冒険者の酒場でパーティを組もう
冒険者ギルド、王都支部。
ボロネスカのそれとは比べ物にならないほどの広さと堅牢さを持つ、ある種の、貴族の館のような建物。
その中の酒場で、ジョンは、頭を抱えていた……。
「ど、どうすれば……。私は、パーティメンバーなんて、できたことが……」
話を聞くと、胡散臭過ぎて固定パーティを組んでもらえないらしい。
冒険者は無頼漢のように見えて信用第一の仕事だからな、そうもなろう。
「それに、自慢ではないのですが、大抵のことは一人でできてしまうので……」
確かに。
ジョンは、軽戦士(フェンサー)レベル5相当の能力を持ちつつも、魔術師(メイジ)レベル4と野伏(レンジャー)レベル4、そして貴族(ノーブル)レベル3くらいの能力を持っている。
英才教育と、それと本人の才能と努力の賜物だな。
うーむ……、手を貸す義理はこれっぽっちもないのだが……。
これは「サブクエスト」ではないか?
俺の望みは、「このファンタジー世界を一冒険者として楽しむこと」だ。
確かに、助けてやる義理人情も、優しさも、俺は持ち合わせていない。
だが、面倒ごとには積極的に首を突っ込んでいかなければ、面白くないではないか。
折角、この世界の神(GM)が用意してくれた良質なシナリオを、ミニゲームを、全く無視するのはつまらない。
「利益にならないからやりません」みたいなマンチ脳では、ゲームである面白さも風情もないというもの。
田舎でスローライフ云々なんて論外だ。萎びたジジイじゃあるまいし。
もちろん、それで面白くなるなら、クエストも断るようなことだってするだろうよ。
確かに、機転を利かせて第三第四の選択肢を手繰り寄せられるのがTRPGの醍醐味ではあるが、導入の段階からふざけ通すクソプレイヤーは害悪だからな。GMの導入には、ある程度乗っからないと駄目だ。
まあ、なんだ。
つまり俺は、この世界で一人の冒険者をロールプレイして遊ぶと決めている訳だな。
なので、こういうまとも寄りな内容のクエストを断っては駄目だろう。
「力を貸そうじゃないか」
「ほ、本当ですか?!助かります!」
「……しかし、どうすれば良いのでしょうか?」
冒険者ギルドの真ん中で首を傾げるジョン。
どうするか?そんなものは簡単だ。
古来から、余り物は組まされる運命にある。
二人組作ってと教師に言われた時、余ったやつは「じゃあ君は先生と組もうか」となるし、修学旅行の組み分けでも余ったらぼっちチームに加入させられる。
つまりそういう訳だ。
俺は、冒険者ギルドを見回して、三人の男女を見つけ出した。
軽薄そうな茶髪のヒューマンと、無精髭のヒューマン。そして丸眼鏡をかけたハーフリング。
ヒューマンの方は、いきなり謎の自慢話を始めてエールを飲み、周りの奴らから煙たがられている。
無精髭のヒューマンは、サイコロ博打をやって、アホな冒険者達から金を巻き上げているようだ。思いっきりイカサマしてるが。
ハーフリングの方は、どうやら鑑定の能力があるらしく、冒険には誘われずに鑑定をさせられている。
ぼっち三人を捕まえて、ロックの始まりという訳だ。
「俺様と冒険がしたいってのはお前か?!いやあ、流石にお目が高いな!この最強の騎士(ナイト)!不死身のパトリシオ様の力が借りたいとは!やっぱ、分かる人には分かっちゃうんだよなぁ〜!俺様の実力ってやつをさ!」
パトリシオ。
ヒューマン、男。
茶髪を長く伸ばして、冒険者とは思えないような……、歌劇団のような派手な格好をした、豪奢な装飾のフルプレートを着た優男。
騎士(ナイト)レベル5、騎兵(キャヴァリー)レベル4、貴族(ノーブル)レベル3のかなりの出来星。
ご覧の通りに自意識過剰で傲慢なところがあるが、腕は確かだ。
レベル5というのは、国に仕える騎士の平均的な実力はあるということ。冒険者ならば、それはちょっとした英雄並みの腕前ということになる。
え?そりゃそうだろう、正面戦闘において、職業軍人である「騎士」に冒険者が勝てる道理はない。
ステータスも知性が6と貧弱だが、その他のステータスは12前後を維持するというかなりの高ステータス。
「おじさん、サイコロは強いけど、腕っぷしはそんなんでもないよ?ん、ああ、名前はレッドラムだ。ま、誘ってくれんならやるけどさ……」
レッドラム。
ヒューマン、男。
ボサボサの髪に無精髭、薄汚れたフード付きの上着に革の胴当てを巻いた、うだつの上がらない中年男。
しかし、腕っぷしはそんなんでもないというのは真っ赤な嘘で、暗殺者(アサシン)レベル7のかなりの達人。
大方、足を洗った暗殺者の類なんだろう。
暗殺者というのは盗賊などの発展系だと俺は認識しているので、事実上は冒険者レベル7の斥候ということになる。
「あ、あのあの、私、商業神に仕える神官(クレリック)のリリーです。えっと、冒険とのことですが、本当に私でよろしいのですか……?」
リリー。
ハーフリング、女。
栗毛の髪を短めに切り揃えた、童顔のハーフリング。丸眼鏡といい、ハーフリングの矮躯といい、可愛らしい文学少女にしか見えない。
司教(ビショップ)レベル5、商人(マーチャント)レベル3、盗賊(シーフ)レベル3と多芸。
ハーフリングは別に信仰心や知性が高い種族ではないので、司教に向いている訳ではない。
なので、冒険者というよりむしろアイテム鑑定人としてのアルバイトで生活しているらしい。
しかし、冒険においてはハーフリングらしく、器用で目敏いので、斥候役の真似事もできる、と。
その代わり、回復魔法はあまり乱発できないらしく、使えるのは重傷治癒(キュア・シリアスウーンズ)なら日に五度までと、同レベル帯の神官と比べると大きく少なめ。まあそもそも、仕える相手が商業神だからな……。
まあ、何はともあれ……。
「これで四人だ。頑張れよ、ジョン」
「えぇ……?」
俺は手を叩いた。
異世界転生したら、強くなり過ぎて使えなくなった継続探索者に憑依転生しちゃいました 飴と無知@ハードオン @HARD_ON
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