高速道路の左を走る

さいとうきいろ

高速道路の左を走る

 宇都宮環状線よりのんびりな高速道路の左を走る


 前を走る沼津ナンバー新緑の観光地へと溶け込んでゆく


 学生のころ買えなくて眺めていたコンサートTシャツ着て誇らしい


 閉じている唇の奥 パイン飴の穴を舌先でつついている


 キャンディは奥歯のあたりでとどまって君が笑える言葉を探す


 渋滞の道路でキスをするなんて車好きとして許せないんだ


 槇原敬之マッキーは君と何度も聴いたのにいつも途中で鼻歌になる


 前奏がやっと弾けるようになったんだ 右手の指で叩くハンドル


 こどもの日の駅前広場溶けそうなエレクトーンに触ってみたい


 人間に餌を求める鯉の群れは音なく泳ぐ蛇に気づかず


 さくらんぼの種を転がす舌の上 餡蜜崩す金のスプーン


 違和感のない「一口、ちょうだい」がトロピカルティーわずかに減らす


 駐車場で交わしたキスはトロピカルティーの甘さと初夏の気怠さ


 美しい思い出語る 雲のない空にだらんとしたこいのぼり


 ベランダの洗濯物はこいのぼりよりも元気で逃げていきそう


 野良猫がゼリーみたいに犬のいる小屋の中へとするする入る


 スニーカーばかりのパレード 犬小屋の中からそっと見守っている


 コンサートチケット買えなかったから柏餅たくさん買って帰ろう


 飛んできた会話をうまくつかめずにテラス席に置き去りのまま


 黄昏をいろんな色に変えてしまうアンブレラスカイ 帰りたくない



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高速道路の左を走る さいとうきいろ @momo630yellow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ