第26話 協力者
沢津は授業を持っていない午後から歯科医院に来ていたため、これから学校に戻って残った仕事をこなさなければならない。今回は診察の予約もしていなかったから、想定より時間を取られてしまった。
と、そこでようやく、沢津はスマホに未確認の着信があったことに気が付いた。
昨日の朝――悠に電話を折り返してから間を置かずの着信で、見落としていた。
相手はまたしても悠である。
もう放課後になっている時刻だし(そもそも最近の悠はあんまり授業に出ていないが)、やはり昨日と同じように折り返し電話をかけてみる。
………………。
しかし、出なかった。
悠は何か行動を起こしているのだろうか。
破竹悠。
殺し屋の生き残りである少年。
悠の長所は顔が幼くかわいいところと行動力に優れているところだと沢津は思う。
顔がかわいければ、それだけで相手は――女性の
ただし、非情にはなりきれていないのではないか、と思う。
十五歳であるということを考慮しても、行動に迷いはないが、後悔の念をくすぶらせている節がある。
まさか、昨日話していた《天使》に何かされたのでは、と心配するが、相手が《天使》だけならば悠が傷付けられることはない。それに、悠だって一端の殺し屋なのだ。そんじょそこらの
だが、学校に戻ったら一応宿直室を覗いてみよう。
七瀬七のことも報せなければいけない。
彼女が《ナース》でほぼ決定である、ということまで先日伝えたが、それが確定したのだ。
沢津自身は殺し屋ではないが、殺し屋の協力者として生きると決めている。
だから、報せないと。
悠が望むなら、どんな
そう沢津は思っている。
しかしながら、殺し屋と同じ目を養ったところで、それだけでは
外見で分からないのであれば、あとは――その概念に由来する、異能の力を突きとめて認識するしかない。
七瀬七――《ナース》の場合は、病巣の知覚、だった。
彼女は人の喋りや歩き方を見ただけで、虫歯の有る無しや身体の状態などを非現実的なレベルで詳細に当てることができた。
それはちょっとした噂程度の情報として、沢津も以前から小耳に挟んではいたのだが、その女性は歯科衛生士ということだったし、なにぶん噂であったので、重要度の低いものとして扱っていたのだった。
それよりも、まず看護師を当たるべきだろうと。被害が出た場合、より大変なことになりそうな大病院から順に、沢津は調べていったのである。
《萌え》概念持ちは総じて優れた容姿を持っているため、だいたいのアタリをつけて、被疑者を一人ひとり慎重に調査する。それは個人のプライバシーを尊重する現代社会において、どうしても危険を伴うやり方だ。良く言えば探偵業で済むかもしれないが、悪く言えば変態、ストーカーと断じられかねない。
そこで沢津は、少しでも自分が女性に興味がないことをアピールするため、オネエ口調を採用したのだ――というのは言い過ぎだが、そこは半々、趣味と実益を兼ねて、といったことろだった。
閑話休題。
沢津が《女教師》の死を知ったのは、それから間もなくのことである。
それは、悠が校内で
結果として、同僚に
《女教師》の
さぞ美しかったのだろうが、今となってはまったく思い出せなかった。
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