第22話 初めての殺人

 夢に見る。

 初めて少女を殺した時の記憶。


 そこは外で、雨が降っていた。

 少女の顔も名前も覚えていないが、それだけは強烈に覚えている。


「こ、殺さないで? 許して? ねぇ、お願い! ねぇ……!」


「許せるわけがないでしょう。それにあなたを生かしたとしても、俺にはリスクがあるだけで、何のメリットもないです」


「そ、そんなこと言わないで……ね?」


「大丈夫、一撃で済みますから」


「や、やだっ! やめて、ごめんなさい! 許し、て……ひっく、いやだ……うっ、死にたくない、死にたくない、よ……」


 懇願する少女の声は。

 鼓膜を震わせることはできても、心を揺るがすことはできない。


 だって、悠の心は。

 冷たく冷たく、どこまでも冷たく、冷え切ってしまっている。


 それは決して、降りしきる雨のせいではない。

 そうでなければ、殺し屋などやっていられないから。


「ごめんなさ……うくっ、うう……やだ、やだやだやだぁ!」


 馬乗りになった悠の下で、じたばたと少女がもがく。

 雨に濡れそぼった少女の服は身体にぴったりと張り付いて透け、胸部の下着を映し出している。

 雨だけでなく涙にも濡れる少女の顔は、殴られたわけでもないのにぐちゃぐちゃだ。


「いや、やだ……やだよ、やぁ……やだあぁぁぁ―――――――っぁ!」


 泣き叫ぶ少女。

 その首を、

 悠は手に持っていたナイフで、掻き切った。


 命乞いをする少女の喉は、簡単に裂け。

 鮮血が舞い、飛び散った。


 涙と雨に、血までが加わり。

 恐怖に怯える表情のまま、穢されて、痙攣する少女の貌を。

 その、物言わぬ凄惨な貌を。

 悠は、ただ一心に眺め続ける。


 目を逸らすわけにはいかなかった。


 自分が少女を殺したという現実から、決して目を逸らすわけにはいかなかった。

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