第18話 教師へのラブレター

 悠は一通の手紙に目を通していた。


「教師へのラブレター……まぁ、生徒同士でしか出しちゃいけないって決まりもないか」


 授業中、教諭用玄関はおろか廊下にさえ人影はない。

 もし誰かに見つかれば、生徒である悠は怒られるだろうが、人の気配を察したなら見咎められる前に隠れるつもりだった。

 殺し屋である悠にとって、それくらいは造作もないことだ。


 悠の手には、女の子が好んで使いそうな桃色の便箋。

 嘉村の下駄箱から躊躇いもなく拝借したそれは、しかしある男子生徒によって投函されたものだ。そこには、嘉村へ宛てた彼の思いが拙くもストレートな文章で綴られていた。


「だけど、自分の口からも直接、伝えたい……か」

 手紙には日時と場所の指定もされていた。


 一方的ではた迷惑な通告だが、拒否することもまた自由。そして何より、本当に自分の口から伝えることが目的なのであれば、どうやら女々しいだけの奴ではないようだ。


 男のくせにラブレターなんて、と悠は思う。自分の気持ちを自分の口で伝えられない奴に、惚れる奴がいるのかと。


 だから、悠はこのラブレターを書いた男子生徒に多少の好感を持った。

 外見も割と爽やかな感じだったし、言うなればかわいい部類の顔立ちだったし、一生懸命に告白されれば嘉村も悪い気はしないだろう。


「さて」

 短く呟くと、悠は便箋を元の場所に戻す。

 日時と場所は記憶した。


(悪いけど――)

 チャンスは決して無駄にしない。

 利用させて、もらう。


 他人のラブレターを盗み見た挙句、その恋路の邪魔をするなんて、ちょっとばかり最悪な気もするが、概念持ちタイトルホルダーを殺すためなのだから仕方ない。


(そう、仕方ないんだ)


 なぜなら、どうしようもないほどに。

 悠は殺し屋である。

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