第14話 殺し屋の目

「悠、この写真の中で誰かおかしいと思う奴はいるか?」


 殺し屋見習いだった悠に先輩が見せてきたのは、芸能事務所のウェブサイトにある所属タレント一覧のような――数名の人物のバストアップ写真が並べられたものだった。


 全員に目を走らせて、悠が答える。

「いえ、とくに誰もおかしいとは思いませんが……」


「そうだろうな。それはお前が、まだ一般人と同じ認識しか持ち合わせていないからだ。殺し屋のそれを、これから身につけてもらう」


「…………」

 悠はもう一度写真を眺めて、

「この中に、概念持ちタイトルホルダーがいるってことですか?」


「そういうことだ。この中に《悪魔》の概念持ちタイトルホルダーがいる」


「悪魔っ娘ですか?」


「そうだ。だが、わからないだろう?」


「この子が可愛いですね」


「……っ。まぁ、そういう見つけ方もあるかもしれないがな。概念持ちタイトルホルダーの容姿が総じて優れていることは周知の事実だし――しかし、そんな直感に頼ることなく、外見に特徴の表れる概念持ちタイトルホルダーを看破できる目を養ってほしい。それが殺し屋の第一歩だ」


 数時間、ずっと写真とにらめっこして、悠は先輩を訪ねて言った。


「やっぱりこの写真、何もおかしなところはないんですけど。だって悪魔なんですから」


「ダメだ。すでに概念持ちタイトルホルダーの力に毒されてるぞ。それがおかしなことだと気付け。これは当然ではないのだと意識し続けろ。どんなに意思の強い人間でも、最低丸一日はその意思を持続していなければ、殺し屋の目は獲得できないと言われている」


 そしてまた、数時間。初めて写真を見せてもらってから、軽く半日は経っている。


「やっと分かりました。ええ、おかしいですよこれ。触覚みたいの出てますし」


「そうか。では、これはどうだ?」

 先輩にまた数名の写真を見せられる。


 一人だけ、猫耳を付けた少女がいる。それは分かる。だけど――。


「え? 何もおかしなところはないですよね?」

「もう一回だ」


 ――そうして二日後。ようやく異常に気付いた悠が「いやぁ、この子が《猫耳》の概念持ちタイトルホルダーだったんですね。全然おかしくないと思ってたから、まさか、という感じです」と先輩に告げ、先輩から次の写真をもらい、また悩み――

 一カ月後、やっと先輩から合格をもらったのだった。



 ——そうだ、概念持ちタイトルホルダーは一般人の前でいくら目立っても構わない。


 むしろ、目立ったほうが堕とせる人が増えるかもしれない。


 殺し屋の数も減った今、リスクよりもリターンのほうが大きいとさえ思える。


 ああ、そうだ。

 目立っちゃまずいのは、俺のほう――


 悠は、気分を入れ替えて。

《女教師》嘉村鈴子を殺すための、事前調査に赴くことにした。

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