第12話 戦慄
まさか、
昨夜もまさか、
正面を向くと、有井が鮭フレークをかけたご飯を口に運んでいる。
(本当に幸せそうに食べるなぁ……)
その表情には、呆気にとられてしまうものがある。
まさしく見ている人を幸せにするような笑みだった。
(でも、萌えないし、殺すけど)
人を幸せにするような笑顔を浮かべる少女であろうと、この胸の憎悪が消えるわけではない。
悠は朝食を採り終えると、
「………………」
しかし繋がらない。
でもまぁ、着信があったことには気付くだろうから、後で沢津のほうから電話してくれるはずだ。
ここ、宿直室の中からは分からないが。
悠の視線の先にある窓は天井のそば、床から二メートル近くの高さにある。そのため、そこから外の様子を見ることはできない。しかし、逆に外から様子を見られることもないのでむしろ助かっている。
そして、部屋の存在自体が忘れ去られているばかりか、一階とはいえ校舎の中で中途半端な位置にあるこの辺りにまで、わざわざ足を運ぶ生徒はそういない。距離的には裏山側にある北門にほど近いが、正門である南門や東門と違い、そこはすでに使われていない。そのため、この付近で人の声や足音を聞くことはほとんどなかった。
……さて。
「有井さん、学校は?」
推定年齢から中高生と思われる天使の少女に訊いてみる。
「あー。どうしましょうかねぇ。制服ないですし。もう、破竹さんが粘るから。さっさと萌えてくれればよかったんですよ」
責めるような台詞ではあるが、拗ねたような口調だった。
「学校はどこなんですか?」
訊けば教えてくれそうだったので、重ねて問う。
「隣の市にある私立
あっさりと。有井はホームだろう場所の名前を口にした。
女子高ではなく共学――ホームの可能性は極めて高い。
「私のメインホームなんですよ、そこ」
「――――――」
悠は。
戦慄を覚えた。
そして、有井に畏敬の念すら抱いてしまった。
逃げも隠れもせず、あまつさえそのメインホームの場所を殺し屋に教えるなんて――度胸があるにもほどがある。彼女のことだから、嘘でもないだろうし。
いや、待て。しかしだ——。
悠は思い直す。
現に有井は殺される心配がないのだ。少なくとも、通常の手段では。
だから、こうまで堂々と自らのメインホームの情報を開示できるのではないか。
そうだ。それだけのことだ。
一瞬でも有井のカミングアウトに感心してしまった自分が忌々しい——。
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