第5話 知らないんですか?

「それでは、改めて破竹さん。私に――」


「いや、俺は萌えないですよ。殺し屋を萌えさせようとか無理ですから。そんなんで萌えたら殺し屋やってませんよ」


「例外も、いるようですけど」


「俺は例外じゃないんですよ。それに考えてもみてください。死なないとか言ってるおばけに萌えるとかないですよ」


「おばけじゃないですよ! 天使です! 本当、ひどいですね。天使だって傷付くんですよ? 女の子なんですから。というか、実際ちょっと泣けてきました……。私に萌えてくださる方もそれなりにいるのに……ぐすっ」


「はぁ…………」

 悠は超絶に深い溜め息を吐いた。


(どうしよう、これ。沢津さんならどうにかする方法知ってるかなぁ。

 ……いったん仕切り直そう)


 悠は伸びてしまったカップラーメンに手を伸ばす。


「っ! 女の子が泣いているのに、無視ですか! 無視するんですね? 最低……最低すぎますよ、破竹さん……っ」


 ちらと目を遣ると、カップラーメンなんて食べてる場合じゃないですよ、とでも言いたげな視線を頂いた。

 うるうると潤んだ瞳がとってもキュートに見えなくもない。


 はぁ、と悠はもう一度溜め息を吐いて口を開いた。


「あのですね、ぶっちゃけて言ってしまいますけど、殺し屋は今、人手不足なんですよ。それは萌義党にも分かっているんでしょう? 年を追うごとに、構成員が狙われる頻度が落ちてるんですから。

 俺はですね、そんな数少ない殺し屋の一人なんですよ。それが、こうして隠れ家を発見されちゃったわけです。ちょっとくらい絶望に打ちひしがれてもいいでしょう」


 本当はもう殺し屋がたった一人しかいないなんて、口が裂けても言えない。


(ていうか、マジでどうしよう。

 これからのことを考えると……いや、考えたくない)


「なんだ、そんなことですか」

 しかし、陰鬱な表情でカップラーメンを啜り続ける悠の耳に、優しい声が飛び込んでくる。


「それなら、心配しなくていいですよ。みんなが――ななちゃんや嘉村かむらさんたちが、ここに出向いてくることはありません。そんな暇ないですもん」


 七ちゃんとは《ナース》七瀬ななせ七のことだとして……カムラさんって誰だ? そんな構成員いたっけ——と悠は思案して、

「えーと、《天使》……ってちょっと呼び辛いな。君、名前は?」

 偉そうに尋ねる。


有井ありいです。有井優可ゆか


「有井さん、カムラさんって誰ですか?」


 ……あれ、また呆れるような顔してる、けど。


「破竹さん、この学校に住んでいて、嘉村さんを知らないんですか? 《女教師》の嘉村鈴子りんこさんですよ」


「あー、ああ。いやぁ、それを俺に教えちゃうんですね、有井さんは」


 ニヤリと笑むと、有井はしまった、と両手で口を押さえる。もう遅いっての。


「有井さん、《天使》の他に《ドジっ娘》の概念持ちタイトルホルダーでもあるんじゃないですか?」


「し、失礼な! 私は純然たる《天使》です。他の概念を混在させたりなんかしてませんよ!」


「ああ、そうですか」


(まぁ、どっちにしろ殺すからいいんだけど。……って、殺せないんだっけか。

 とりあえず会話を続けよう。何かヒントを——)

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