第3話 金魚じゃないもん!

 悠の動きは早かった。


 あいにく手持ちの武器はないが、この両腕があれば事足りる。向こうの戦闘力がどれほどかは知らないが、この距離、このタイミング、あの姿勢からの反撃などたかが知れているというものだ。


 チャンスは決して無駄にしない――殺し屋として生きるのであれば、それは戒律のようなものである。一度の逸機により被る損失は、自らの命に匹敵することさえ珍しくない。


 悠は立ち上がりながら一息で少女に接近、沈み込んだままの体勢からすくい上げるように下腹部へ拳を食らわせた。


 そして初撃の衝撃で前のめりになろうとする少女の身体――その首を、捕まえた。


 両手でしっかりと少女の首を掴み、力を加え、ぐ、ぐ、と気道を圧迫していく。


 喉を潰され、肺に酸素を得られなくなり、苦悶に歪むはずの少女の顔は――しかし、不自然なことに平然としていた。


「……苦しく、ないんですか」

 聞いてしまう。


「………………っ!」

 ぱくぱくと口を開閉する少女。金魚じみていて滑稽だったが、それが喋れないからだと分かり、手の力を少し緩める。


「なに……するん……ですかっ。こほっ」

 掠れた声で少女が言った。まったく苦しくはないようだが、まだ喋り辛いのだろう。


「首を絞めているんです」

「殺す気なら……無理、ですよ」

「なぜ?」

「天使は……死にませんから」


「……………ああ」

 なるほど、と納得して手を離した。


 反撃はない。仲間が現れる様子もない。

 だけど、睨まれた。

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