第2話 天使の微笑み②

「……お前は、誰だ」

 衝撃に、思わず口調が変わってしまう。らしくもない。言い直す。

「あなたは、誰ですか」


「うふふ。見て分かりませんか?」


 見て――。


 頭上には金色のドーナツ……よりも細くて薄っぺらい、輪っか。それが重力に逆らい、頭頂部の真上で静かに浮いている。

 胸から腰にかけての側面からは、恐らく背中に付いているのだろう羽の半分ほどが見えている。

 特筆すべきは、その二点か。


 髪が金色でふわふわだとか、それが鎖骨を隠すように流れているとか、人をあまり疑わなそうな顔だとか、肌が白くて綺麗だとか、それに似合う真白のネグリジェのような衣装を着ているとか、来客用スリッパを履いているとか、恐らく自分と同年代だろうとか、そういったことはこの際無視していいだろう。


 真っ先に述べた二点こそが、致命的なまでに彼女の存在を物語っている。


「《天使》ですかね……。コスプレじゃなければ、概念持ちタイトルホルダーの」

「ええ、そうです。《天使》です。そしてお察しの通りこれはコスプレではなく、私は概念持ちタイトルホルダーです」


 ――まさか、向こうからのこのこ現れるとは。

 概念持ちタイトルホルダーということは、間違いなく『萌義党もえぎとう』の構成員。

 俺にとって――殺害対象となる存在だ。

 この女は、馬鹿なのか?

 それとも罠か?


「さぁさぁ、天使ですよ。ほら、見てください、この顔を。どうです? 超が付くほどの美少女でしょう? そうですとも。だって私は天使なんですから。だから、我慢しなくていいんですよ? 大人しく萌えちゃってください、破竹さん」


「――――――」

 罠であろうと、まずは一殺。


 確かに愛らしい顔立ちかもしれないが、そんなのは萌義党の構成員――概念持ちタイトルホルダーの女性ほぼ全てに言えることだ。そんなものが、殺し屋相手に通用するわけがない。

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