最終話

 七色に包まれたときは死を覚悟した。


 だが、違った。


 この身に宿る力が、そうではないと言った。これは、ワープゲートのようなものだと。


 目の前に広がる広大な極彩色の世界は、ありとあらゆる空間、過去、現在、未来へ移動することができるハブ空港のようなもの。


 だが、そこに待合室のようなものはなくて、思いのほか優しい光が、どこまでも伸びている。


 そんな空間に、僕は突っ立っていた。


 とにもかくにもこのままではどうしようもないと、前へ進むことにした。


 しばらく、果てのない空間を歩きつづけた。


 前方に、二人の人影が見えてきた。敵意はなさそうだったので、近づいていく。あわよくば、ここがどこなのかを聞こかと思って。


 男性と女性だ。


 その顔に、僕は見覚えがあった。


「お父さんとお母さん……」


 思わずつぶやいた言葉に返事はなかった。だが、紛れもなく、僕の両親であった。


 両親は、何も言わない。ただ、にっこりと微笑んでいる。僕がやってくるのを待っているかのように。


 そっちに行けば、両親と会える――そんな気がした。


 この世界にはいない、だけどもあの世というわけでもない、例えるなら夢の国へと。


 僕は、神様によって有久島ありひさじまへと連れてこられた。神が望むことを成し遂げたから、その対価を与えられようとしている。


 例えば、なぜ両親が亡くなったのかを、神は教えてくれた。


 両親は、夢の世界へ行こうとした。そこならば、母や僕が魚人に変異してしまうのを防ぐ手立てがあるのだろうと。



 その方法というのが、「全にして一」「門を開く鍵」……そして僕の身に宿る神様を頼るという方法だった。かの神であれば、夢の世界へだっていける。


 そして、その方法を実践した結果、両親は現実世界での肉体を失った。


 僕だけが、一人、現実に残されたのだ。


 今思えば、僕が生き返えることができたのは、そのことがあったからかもしれない。神様なりの贖罪しょくざいというわけだ。……神様がそこまでいい存在なのかはわからないけれども。


 僕にとっては、いいやつだったというだけだ。


 そのよくわからない神様によって、チャンスを与えられた。


 邪教に染まった島を破壊するという依頼クエスト。それが、僕に課せられた任務だったんだ。それを僕は無事に達成し、今、選択を迫られている。


 両親がいる幻夢境ドリームランドへと向かうか。


 慣れ親しんだ日常へと帰るか。


 理解を超えた、ある意味では狂気的な部分で、神からの問いを理解した。


 そうして、僕は一方へと歩きはじめる。


 あふれんばかりの光に包まれたかと思えば、僕の意識は、まどろむように融けていった。






 有久島ありひさじまが消失した。


 その直前、上空にオーロラにも似た光が生じた。自衛隊ならびに報道機関が、有久島があった場所に接近を試みようとしたが、不思議なことにたどり着けなかった。まるで、そんな場所など存在しないかのように。


 あるいは、バミューダトライアングルのように空間が歪曲わいきょくしているかもしれない、とボストン近郊のM大学P原子力研究所の職員が発言したが、信じる者は少なかった。


 とにもかくにも、その島において何が起きたのかを知るものはいない。


 人知を超えた神々。


 そして、夢の果てへと旅立った、ただ一人を除いては。

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怪しき島にあらわれたもの 藤原くう @erevestakiba

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