鏖殺忌譚 黒鉄のブラックスミス
閻魔カムイ
第1話 憤怒
-----始まりに憤怒があった。
俺の黒鉄のような拳は 朱色に染まり
眼前の 醜い肉塊に報いを受けさせろと 異界の異形共を駆逐せよ 全てを殺せと
何者かが俺に囁いた。俺はその囁きと衝動の赴くままに 肉塊を原型が無くなるまで砕いた。
これは俺が心を無くすと同時に 護る力を得るまでの物語だ。
「ふう、今日の鉱石集めは此処らへんで終わるかな!」
俺は三国黒桐。炭鉱夫をやっている15歳の少年だ。
俺の家系は代々鉱石掘りの家系で、そこで得られた石たちは、この世界でモノノケを狩る狩人達の武器の素材として使われている。
この仕事に関しては、俺も父も、自分達の集めた結晶が、人々を護る為の道具に変わって使われることに誇りを持っていたし、この仕事がいつまでも続いて、平穏無事な毎日が終わらないことを願っていた。
だが、それは唐突に奪われた。異形のバケモノ、モノノケ達によって。
「チビたちー、兄ちゃんが帰ったぞー!」
「おかえり!兄ちゃん!」
「今日の鉱石も凄い綺麗だね!」
「いつも兄ちゃんは頑張ってて凄いよ!」
俺の家族は四人兄妹で、長男の俺、次男のケイタ、長女のアカリ、三男のマモルという家族構成だ。
「ハハハ、ありがとうな。職場の人に、チビ達にってことで、いいモノがある。大量の角砂糖だぞ!」
「お兄ちゃん、俺達これ大好き!ありがとうね!」
「本当はもっといいモノを食わせたいんだけどな...今はこれで我慢してくれ。
「アカリ、今度ショートケーキってお菓子が食べたい!いつか食べさせてくれる?」
「ああ、勿論だ。」
「おお、黒桐、帰ったか。」
「父さん、ただいま。母さんは、まだ布団の中かい?」
「ああ、まだ熱で苦しんでる。でも、これだけの鉱石があれば薬が買える。よくやった、黒桐。お前は本当に我が家の自慢の息子だ。」
「長男として当然のことをしたまでだよ、父さん。じゃあ、換金所でお金に替えて、薬も買ってくる!」
「分かった。雪道だから、気を付けるんだぞ。」
父の名は、三国黒里。
母の名は三国澪。
父は現役時代に崩落事故に巻き込まれて右足を失い引退、母は病床の為、俺が家の大抵のことはやっている。
見ての通り、貧困な家庭だが、それでも俺は今の仕事にやり甲斐を感じてるし、俺の持ち帰るなけなしの報酬や砂糖菓子でも、ありがとうと言葉を掛けられるのが嬉しかった。それだけで、俺はどんなに辛い仕事でもやり抜く気力が得られたんだ。
だが、それは脆く 余りにも脆い願いだった
だから 俺は鋼になるしかなかったんだ
「そろそろ、家だな。マモルが外にいる。どうしたんだ?おーい!」
「お兄ちゃん、大変!家にモノノケが入ってきて!」
「え!?この辺にモノノケは居ないはずだろ!?」
「お兄ちゃん、付いてきて!」
俺は全速力で家に戻った。
間に合わなかった。
「母さん、父さん!」
「ギ、ギギ... 」
眼前には、腹を膨張させたモノノケが両親の死体を喰い漁る姿だけがあった。
「________あ、あああああ」
刹那、声が聴こえた。
「復讐セヨ。 オマエにはそれ以外の感情は必要ナイ。」
瞬間、俺は呟いた
鋼よ、より鋼であれ___ブラックスミス
すると、俺の拳は真っ黒に染まり、黒鉄のような重さに思わず俺は転びそうになった。だが憤怒が次の一歩を踏み出す嚆矢となった。
「殺セ。」
「ああ。」
腹と拳に力を込め、全力を込めて眼の前の塵屑を潰す。潰す。潰す。その繰り返し。
俺が一撃を入れるたび、塵屑の原型は歪んでく。
「ギキィ...」
眼の前の塵屑は涙を浮かべて命乞いの姿勢を取っていた。関係無い。こいつは、俺の全てを奪った。それだけで死ぬのに理由は無い。潰す。
呆気なく豆腐のようにモノノケの頭部は砕け散った。
「次はお前だ」
「キィ...」
逃げ出すモノノケを俺は捕縛して、まずは眼から潰す。そして、四肢を千切って、今も死に絶え絶えの、モノノケの首を絞めて、最大限の苦しみを持って殺す。
首が玩具のようにボキリ、と曲がって全てが終わった。
「終わったよ、チビ達。出ておいで。」
俺は笑顔で振り返る。
「来ないで、バケモノ...」
ああ、そうか。俺は親だけでなく、兄弟も喪ったんだな。
もう既に涙は枯れていた。
____数年後
「君かね、餓鬼使いのモノノケを殺したいという青年は。」
「はい。やっと復讐相手を突き止めたんです。俺に、戦い方を教えて下さい」
「いいぞー。」
「ありがとうございます。俺の名は三国黒桐。」
「ワシはアメリ。黒鉄のアメリじゃ。よろしゅうな。では、弟子入りを祝して、この段平を贈ろう。」
「感謝します。とても手に馴染みますよ。」
これであの塵屑共を殺せる。殺意が俺をせきたてていた。
鏖殺忌譚 黒鉄のブラックスミス 閻魔カムイ @dabi12
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