第7話 魔法使いだけどロボ

 マリーさんからもらったローブと、ジングように作られたお弁当をもらい仕事の場所へとやって来た。そういえば、俺はマリーさんの家で食事はしていない。ロボ用のレストランがそう簡単にある訳はないし、ジングが入れない。それでも何か鉄的なものが落ちていたら拾い食いでもしてでも俺は食事をしたかった。


「やぁ、君が魔法使いの方ですね?」

太った丸い鼻の笑顔が素敵なおじさんが俺に握手を求めてきた。大きなローブで手を隠してはいるが握手をしてしまったら意味がない。それを察し、ジングが割り込んだ。

「ああ、師匠の手には強い魔力があり、一般の方が触れると危ないので、握手なら私がしますよ」

「あ、ああ」

おじさんは魔法使い(本当はロボ、絶対にロボ)の俺と握手出来ないことに驚いたというよりかはジングの6歳の女の子とは思えない口の上手さに驚いているんだろう。だって俺も驚いているから。


 仕事の内容はおじさんの馬車で荷物を運ぶんだがその護衛だそうだ。別に魔法使いじゃなくてもいいのではと思う。

「確かに魔法使いにこだわる必要はないと感じるでしょ。でもね、この道中の草むらに何やらいるらしいんですよ。魔力を持ったバケモノが!」

魔力を持ったバケモノと聞いて、俺は口から炎の球を出すアイツを思い出した。確かにアイツのようなのだったらロボの力よりかは魔法が必要かもしれない。でも、アイツを倒せたのは魔力の暴走があってからで、次倒せるかどうかは分からない。ただこのマリーさんからもらったローブは何やら自分を偉大な魔法使いと錯覚してくれる。だから結局どうかは分からない。なるようになれというロボらしからぬことなんだ。


 馬車は順調に進んでいき、乗り心地も悪くない。おじさんは優しいのか、ジングが幼いからなのかジングが昼寝をしても優しく微笑んでいるだけだった。

「いやぁ、気持ちいい風ですね」

「そうですね」

俺はこの風の良さが分かってよかったなと思った。


 「もう少しです、以前ここで私の同僚が襲われなんとか彼は逃げられましたが、荷物は全滅でした。おそらく裏で魔法使いが引いているんじゃないかと、荷物目的に」

「荷物の中身は何なんですか?」

「魔法石ですよ。研究所に届けるんです」

俺はこれでバケモノに勝てるとも思ったし、また暴走して取返しのつかないことになるのではと心配にもなった。今のところ声は聞こえない。


「うーん、もう着いたトゴロ・・・・・・じゃなかった師匠?」

「まだだな。だけどもうすぐだそうだ」

ピタっと急に馬が止まりだした。馬が逆方向に走ろうとする。

「お、おいどうしたんだ?ジャニス!何があったんだ?」

感じる、俺は魔力を感じている。何か音を発していた。

「ヒヒーン」

馬は走る、さっき来た道をでも、あの音はどんどん近づいてくる。どこからなのか?空に大きな影が現れた。


馬車の前に突如、ドンと飛び降りたバケモノ。 コウモリのような翼に顔はサイに近く角が生えており、その角から音を発していた。大きさは30mはあるであろう巨大だった。しかし、飛び降りた時に馬車は倒れなかったので、思ったより軽いのかもしれない。いずれにせよ仕事開始だ。


 俺は馬車から出ていき、バケモノを森の方へと誘おうと思ったが、俺が小さくて見えないのか馬車以外は眼中になかった。せめて、おじさんだけも逃げてもらおうと思ったが、おじさんは馬車を離れようとしなかった。


「おじさん!何をしてるんだ!逃げるんだ!」

「君たちを信じてるからね、ワシはこの荷物を絶対に届けるよ!」

俺はこれほどまでのバカを見たことがなかったが、おじさんの思いに俺は答えたいと思った。声が声が聞こえない。代わりに嫌な音がする。


「この音何、てかデカい、デカすぎるよ!あのバケモノ!」

ジングはいつのまにか馬車から降りて俺の後ろの方にいた。するとジングは呪文を唱えだした。

「水よ、邪なものに清き罰を!」

十字架の水が放たれ、バケモノに当たるが、ダメだった。全くビクともしていない。

「ビョージューン」

バケモノは大きなコウモリの翼で風を起こした。さっきまでいい風だったのに。

馬車は馬やおじさんごと吹き飛んだ。俺はすぐさま駆け寄ろうとしたが、それを阻止しようとバケモノが俺を踏もうとした。

「うわぁぁ!!」

衝撃で近くにいたジングは吹き飛んだ。

「ジング!!」

俺はロボとしての意地を見せ持ちこたえた。今は魔法使いだけど俺はロボだ。こうなったら、マリーさんのもらったローブを脱ぎ捨てた。俺は右手のツルハシを思いっきりバケモノの足に突き刺した。

「ビョーエーン」

バケモノは痛がっていた。さすがにダメージは入っていた。バケモノは俺の方へ眼を向けた。これなら森へと誘えるかもしれない。その時声が聞こえた。

「なるほど!」

俺は風の声を聞いた。風は言語じゃなくメロディで音を声として俺に伝えてくれた。

俺の右手のツルハシに風が宿る。軽い、俺は空に浮いていた。俺はツルハシを振った、すると小さな風が起きた。その小さな風は鋭く、素早くバケモノの角を切り倒した。

「ビョエエーン」


「う、うーん・・・・・・な、なんだあれは?ロボだったのか?でも魔法が使える?これはもしかして、研究の成果なのか?」

おじさんは頭に血を流しながらも俺の戦いを見ていた。研究の成果か、おじさんの声が風に乗って俺に聞こえてくる。

「これはすごい、すごいぞ、魔法使いだけどロボだ!」

「そうだ!」

おじさんの声が風となり俺の声も風となる。

「うーん、え、何これ!トゴロすごい!」

ジングは幸いケガがなく、その声が風となり声が音となり響く。


俺の体が光る、緑色に。おそらく荷物の魔法石も光っているのだろう。いい風が吹いている。負ける気がしなかった。俺は回った。クルクルと回転をした。すると小さな竜巻が出来た。それが風に乗って、バケモノの体内へと侵入し、中から切り刻まれていく。

「グサグサグサ」

「ビョエエエエン!!!」

バケモノはそのまま、魔力の塵となり風になった。俺は勝った。勝ったんだ。


 「すごい、ワシは今、大魔法使いを見ている。奇跡だ希望だ、すんばらしいぞ!

ワシは今感動をしているぞ!」

血が出ている頭を抑えながら、ゆっくり降りてくる俺に向かい走るおじさん。


地面が鋭く尖り、走ってるおじさんを貫いた。

「じゃあこれは絶望か?」

黒い髪の青年が森の方から歩いてきた。

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