第6話 金がないロボ

 俺は自分が住んでいた街とは違う街にいた。名を「ミジュ」という港町だった。鉱山の連中が気になるっちゃ気になるが、今の俺はトゴロだ関係ないという考えをしていた。いわゆる開き直りだ。考えてもただ新たなもめ事が増えるだけだだ。


 ジングはサンドイッチを食べていた。一番安い、チーズだけが入ったサンドイッチだ。ジングは俺を睨んでサンドイッチを食べていた。どうやらジングは俺が金を持っていると思っていたらしい。


 確かに俺は鉱山で働いているが、大した金額はもらえてなく、というか食事と家賃くらいしか使い道がなかった。そもそもロボが食事したり家に住んだりするようになったのは今から30年前のロボ革命後の話で、ロボ革命は所謂、ロボも働いているんだから人権的なものをよこせ、というロボの権利主張運動のことである。俺は50年前のロボだから、それ以前のロボの頃も知っている。今と違って、倉庫に並べられていたのをおぼえていて、確かに味気ないかもしれない。あの味つけされてないチーズのサンドイッチのように。


 俺は3日くらいぐっすり眠っていて、ジングは大変つまらなかったそうだ。宿代や食費などは父親からもらってたお金でなんとかしていたらしい。それも底をつきて、さてどうするかということではある。ジング曰く考えはあるらしい。


「と、ゴクン、ハァー、せめてミルクでも欲しい。とりあえず、掲示板で何か依頼がないか見よう!」

どうやら街の掲示板には家事代行や護衛募集など色々とあるらしい。ロボの俺でも働ける仕事はあるのだろうか?そもそも俺はお尋ね者になってないのだろうか?


「うーん・・・・・・ロボお断りとは書いてないけど、これでいいか。日にちは明日で報酬は5万ガネもするから割のいい仕事ね」

ジングはすぐさま俺の断りもなしに役所へ届け、仕事が受理された。戻って来たジングは少し困った顔をしていた。

「仕事受けたけど・・・・・・魔法使い募集なのよね、私は将来は大魔法使いになるけど今はまだだし・・・・・・トゴロってロボだけど魔法仕えたから大丈夫よね?」

「いや、ロボが魔法使ったらおかしいだろ!」

「でも使えるじゃん」

「それは・・・・・・でも色々と問題になる」

「じゃあどうするの?断るの?そんなの嫌よ」

「だけど、俺はどう見てもロボだぞ」

「そうね、円柱の頭に丸い目、逆三角形の鼻に長方形のハーモニカみたいな口、いかにもおとぎ話に出てきそうなロボよね」

「そうだ、俺は古いロボなんだ、だからロボらしい姿で、違う、らしいとかじゃなくて俺はロボなんだ、そう俺はロボだ!」

「分かったわよ、うーんじゃあ変装しましょう」


 ジングは港の路地裏のゴミ箱を漁った。

「おい、何をしている?」

「うーん、たまに大きい布とか入ってるのよ」

「そんなゴミを漁る生活をしていたのか?」

「うーん、宝探しみたいな、ここから結構売れるアクセサリーなんかも見つけたこともあるんだよ」

ジングはフードを顔を隠すために深く被っていたが、よく見えなかったから外し、小さい体でゴミ箱を体ごと突っ込み使えそうなものを探していた。

「う、うわぁぁ」

ジングは体を突っ込みすぎてスッポリゴミ箱の中に入ってしまった。

「おい、アナタたち何をしているの?」

声をかけたのは恰幅のいいおばさんだった。事情を話すと、それならウチに上がればと親切に言ってきてくれた。

「それと、その娘にお風呂もだね」

ゴミ箱からひょこっと汚れたジングがボサボサの髪をポリポリかいて照れていた。


「ジャー」

ジングがシャワーを浴びている音が俺のいるリビングにも聞こえる。俺はもう少し遠慮した方がいいのではと思った。それにしても気になるのは何故おばさんはジングの右半分の顔を見ても驚かなかったんだろ?もしかしたら何か知っているかもしれない


 おばさんが大きなローブを持って戻って来た。

「これならどうかね?」

「そうですね、大丈夫かと思います」

「そうかい、でもとりあえず着て見せてくれないか?」

そう言われ俺はこの大きなローブを着ることにした。誰かが着た様子はなくきれいだが、俺のデーターによるとこのローブは5年前のものでしかも男性用だ。つまりおばさんが着る為のものでもない。そこから推測するに、おばさんの旦那さんか息子さんだろうかと思われる。

「おお、似合ってるね」

「ちゃんと手が隠れていいですね、これって元々ご家族の誰かの為ですか?」

「家族・・・・・・そうだね、そうなるはずだったね、少なくとも私はそう思って接していたよ」

なんだか訳ありそうだったのでそれ以上は追求しなかった。

「ふぅーさっぱりした~」

ジングが風呂から上がり、おばさんのぶかぶかのシャツを、下にズボンなどを履かずに着ていた。遠慮なく、リビングのソファにどかっと座り俺のローブ姿を見て、笑った。

「いいね、それならロボだって分からない」

「おい!」

「あっ!」

「いいんだよ、訳ありなんだろ?」

「そうです・・・・・・おばさん?」

「私のことはマリーと呼んでくれないかね」

「じゃあマリーさん、こいつがおかしいのはそうだけど、私のこの顔右半分見てなんとも思わないんですか?」

俺は、自分から聞くジングは凄いと思った。

「そうね、それ何かの魔法だよね?私は昔は魔法使いとしてブイブイ言わせてね、弟子とかもいたんだよ」

「それじゃあ治せるの!?」

「でもね、今はもう魔法使いはやってないんだ。それにその魔法は強力で私にはどうすればいいか分からないね。その魔法を使った人に聞くしかないだろうね。こんな姿にされて腹が立つだろうが、相手はとんでもない魔法使いだからね。気をつけるんだよ。」

なんだか訳ありそうで、マリーさんは窓の方を眺め、俺たち以外の誰かにも話しているようだった。


 俺たちは今晩マリーさんの家に泊めてくれた。ジングはおそらく母親を幼いころに、今も幼いが亡くしており、マリーさんを母親のように思っていたんだろう。今ジングはマリーさんの隣でぐっすり眠っていた。俺はもう一度あのローブを着てみた。このローブを着ると俺は魔法使いも悪くないなと思えた。

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