第5話 トゴロという名のロボ

 俺の頭はボーっとする。しかし、少女はそんな俺はお構いなしに怒鳴り散らす。

「この人殺し!お父さんを返せ!どうしてくれるんだ!お前は何なんだ!」

人間の為に作られたロボとして人間を殺したというのはロボとしてあるまじき行為で恥ずべきことではあった。しかし、そんな考えが出来ない程に俺は疲れていた。

ポタポタと落ちる涙が俺の熱い体に触れ一瞬でジュワーと蒸発していった。それがなんとも少女の涙を侮辱している気持ちになって申し訳なくはあるが、それにしても疲れていた。早くここから出たかった。周りの炎も俺が無意識に体内の魔法石か、あの山積みになってる魔法石かが吸収しているみたいなので、辺りの炎はすっかり消えていた。できればあのチョビひげが燃える前に吸収してくれれば俺はこの少女に笑顔で感謝されていたことだろうに。


 それにしてもこの少女の顔右半分は異常だった。なんなんだろうこれは?粘土なのか?石なのか?顔右半分に覆われて右目も隠れていた。高さは頭を超えていて、何やら成長をしているような生き物さを感じる。しかし色が白いせいか死という印象も感じる。なんとなく魔力を感じるような気がし、魔法と関係があるのかなと思われる。少女に聞いてみたかったが、少女の涙が止むのを待たなければどうしようもないと思った。いや、それよりも先に出てゆっくりしたい。休みたかった。


「私にはお父さんしかいなかったんだ!もうお前が責任をとれ、お前が私を育てろ!お前がこれを治せ!!」

少女は俺にやたらと注文をしてきた。育てろ?治せ?無茶を言う。しかし、俺はこの先のことを考えると元の鉱山で働くのは無理そうと感じてはいた。魔法石を発掘となると俺の魔力が暴走しかねないからだ。とは言え、父親を殺してしまったとはいえ、この名も知らない小さな少女を俺が育てるというのは無謀すぎる。とにかく承諾するにも何にもまずはここを出てからだ。何度も言うが俺は疲れているんだ。俺は誰に言っているんだ?


 「おい、返事はどうした?ロボだろお前?ロボなら人間様のいうことを聞けよ、おい聞いてんのか?はいって言えよ、はいって言えよ!」

「あー分かった!」

俺は疲れていたんだ。だから、もう面倒だった。もうとにかくもうとにかくだ。


 「じゃあ約束だぞ、指きりだ!」

少女は小指を出したが、あいにく俺の右手は掴むためだけのU字で、左手は採掘の時に付け替えたツルハシになっている。少女はひとりで小指を振った。

「はい、指きった!」

少女は満足そうだった。

「じゃあこれから、お前は私を大切にし命を懸けて守り一生私の家来ということで!」

随分なことは言っているなと思った。しかし、それで少女の機嫌がいいならもう俺はどうでもよかった。そもそもロボは人間の為にいるんだ。


「じゃあ自己紹介をしよう、私の名はジング・アメイで6歳だ!お前は?」

「自分はX-123TZ4065」

「え?」

「自分はX-123TZ4065」

「いやだから・・・・・・」

「自分はX-123TZ4065」

「何言ってるか分かんなーい!」

ジングは怒った。とはいってもこれが名前なのだから仕方がない。

「何か別名とかないの?」

「ない、みんなはお前とか言う。」

「じゃあ、あたしが名前を付けてあげる。そうね・・・・・・そうだ、ヒトゴロシだからトゴロでどう?」

随分皮肉が効いた名前だなと思った。あまり響きもよくないし、いい名前とは思えなかったが、別に元々名前なんぞどうでもよかった。ロボとしての型番こそが俺の名前だと思っているし、これくらい別にどうでもいい。

「分かった。それでいい。」

「じゃあ決まりね!それとこの右顔半分も治してよね」

「治すと言っても、それが何か分からないと治せない」

「そんなの私も知らないもん。急に男の魔法使いが私に魔法をかけてこんなことになってしまったんだ」

「魔法使い・・・・・・ではその魔法使いを探すという事か?」

「アイツは言ってた、治したかったら魔法石を千個集めてこいって」

「魔法石を千個!だから君の父は手に入れようとしていたのか・・・・・・ん何をしている?」

ジングは山積みになった魔法石を手に取っていた。そういえば、あの暴走以降この魔法石と俺は光らなくなっていた。ジングはそれをローブのフードの中に5個いれた。

「さぁ、トゴロもロボなんだから私よりたくさん持って行ってよね。」

俺は疲れていて、全然持てなかった。U字型の左手で1個だけだった。ジングはそんな俺を見て笑った。

「私の方がいっぱい持ってるのに、へなちょこロボだなトゴロは」

なんとでも言うがいいとにかく俺は・・・・・・やめておこう。


ジングと俺は出口へ向かった。少女はここからすぐ外に出られると言っていたので、疲れた俺も思わず速さを取り戻す。バケモノが魔法で封じてた出口を出ると、山積みされた魔法石が突如爆発した。

「ドカーン、ドカーン、ドカーン!!」

俺は危ないと思い、持っていた魔法石とジングのフードに入った魔法石を全て投げ捨てた。そしてそこから数秒後その魔法石も爆発した。

「ドカーン!!」


 外へと出た俺たちの前に広がる景色は草が生えていて、温かい風が吹いていた。

そこに綺麗な白い花が咲いているエリアがあった。こう見ると白というものにも生命を感じる。

「ここにお父さんのお墓を建てる!」

ジングは白い花の前で拝んだ。俺も同じポーズをとった。ロボとして無意味と思いつつも、トゴロと名乗る俺としては拝みたかった。

「トゴロも死んだら、ここにお墓建てるね」

「俺は死んだら、スクラップされてゴミの山だ」

「ふーん、それでも建てるね」

疲れていたので、俺はただ照れくさそうに頷いた。


 

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