第3話 助けるロボ

 長方形の足で俺は少し急いでいた。どうやらいつもより起動———起きるのが遅れてしまい、いつもと違う時間に家を出た為に急いでいた。恐らくゆっくり歩いても間に合うだろうが、いつもと違うことに俺は焦ってしまった。すれ違う人間やロボに会釈など挨拶をロボなりにしていたのだが、それも無視をしていた。

「カンッ!」

どこかのロボとぶつかってしまったが、俺は軽く会釈をしてすぐさまスタスタと歩き出した。これは失礼である。しかし焦っているんだから仕方がないと思ってしまう。しかも相手のロボは最先端な若造で、いかにも最先端ですよな青く光る眼が俺は気に食わなかった。真っ白で錆びなんて未経験ですというツルツルボディで、何の苦労もまだしてなさそうな、オマケにムカつくのは俺がこんなU字型の掴むためだけの手なのにアイツは人間と同じく指がついてやがる。ま、それはスティーブンもそうなんだが・・・・・・


「よっ!お前今日は少し遅いじゃないか」

「・・・・・・あっ!」

スティーブンが俺に話しかけていた。どうやら俺はぶつぶつしている間に鉱山の入り口に着いたみたいだ。

「おいおいロボなのにボーっとしていたのか?あ、そろそろ朝礼始まるみたいだ」

俺とスティーブンは自分たちの決められた列に行き並んだ。横に6列、縦に7列の計42体で鉱山の発掘を行っている。人間だったら200人必要な仕事も、俺たちロボならこれぐらいで事足りる。今日はケチな人間の社長が挨拶するみたいだ。

「最後の一体も揃ったみたいなんで、既定の時間より早いけど、みなさんおはようございます。今日は記念すべき魔法石発掘初日になります。今までは発掘しても採取しませんでしたが、今日からはこちら魔法石をメインに行ってもらいます。もちろん今まで通り鉄鉱石の採取も行ってもらいますが、あくまで優先的に魔法石でお願いします。最近この魔法石の研究が進んでおり、魔法と科学、魔科学の研究として大いに役立つとのことです。これは君たちロボにおいても無関係という訳ではありません。これからロボも魔法を使う時代になるかもしれないんです。その未来の第一歩が!この歴史的第一歩が!今、今日始まるという訳です。これは国からの依頼です!名誉あることなのです!君たちは選ばれたロボ!優れたロボ!幸せなロボなのです!さぁ、それじゃあいつも以上に張り切って仕事に励んでくれたまえ以上!!」

俺は大袈裟だなと思った。現に魔法が使えるロボはここにいる。


 ズンズンとロボ達が坑道へ入っていく。俺はまた声が聞こえ、みんなにバレないようにU字型の手を出し小石を浮かび上がらせた。もっと大きなものも浮かべそうと思った。なんとなく、ケチ社長に対する皮肉の為に俺はやったような気がした。


 半分は会社が用意した人間も使えるツルハシを握り、もう半分は自らの右腕を外しツルハシが先端についてる腕に付け替える。俺もその一体で、スティーブンはそのままツルハシを握っていた。トロッコに俺や他のロボの右腕が入っている。他の腕が誰のかは分からないが、俺の腕は錆びが目立つ年期の入ったアレだと分かって俺はなんだか少し嬉しいと思った。


 「ガガガガ」

俺たちロボは力があるから、人間の様にチンタラとはしない。勢いよく次々と掘っていく。俺のエリアでは幸いにも鉄鉱石ばかりだった。採掘した鉄鉱石をトロッコに俺は入れ、すぐにいっぱいになったので、新しいトロッコと交換しようとした。ふとスティーブンの方を見るとスティーブンは順調に魔法石を採掘していた。俺はスティーブンにあまり近づかないようにしようと思った。


 一通り採掘終わると、更に奥の方へと進んでいく。急な上り坂になって人間だったら悲鳴をあげそうだと思った。だから奥へ進むのは全員ロボ。人間がしたくないことをしているというのはロボ冥利に尽きる。ロボとして充実感をおぼえる。目的地へ着いた。ここのエリアは先週に俺たちロボが掘って開けさせた。今思うと結構大変だったなと感じ、魔法だったらと———危ない!?


 前にいるロボ達の天井が崩れそうになっていた。俺はいつのまにかみんなより遅れていて後ろの方にいた。きっと何かぶつぶつ思っていたからだ。しかも、周りのロボはそのことに気が付いてない様子だった。間に合わない、大きな岩がもう落ちてきてスティーブンや他のロボ達がスクラップになってしまう———助けたい!!


 その思いに答えるかのようにまた声が聞こえる。それはいつもより大きく、いつもより心地よく、初めて「ありがとう」と思えた。


 「心を軽く、心と岩はつながり、心の軽さは岩の軽さとなる」

この声の導きを理解し、俺はツルハシのアタッチメントがついた右手を前に出した。右手はピンク色に光、向けられている岩の周りにもピンク色の光が囲っている。

右手を上に少し上げると岩がふわふわと浮かんだ。そして危なくないところへ右にスライドさせ、右手を強く振るうと岩が音を立てず粉々に砕けた。まるであるべき姿にもどったかのように無数の小さな小石となった。


 「今のって魔法!?」

最初に声を出したのがスティーブンならよかった。しかし別のロボが、それも比較的新しいロボがそう言った。そして他のロボもスティーブンも俺の方へと近づいてくる。ズンズンと何故か規則正しい列になり近づいてくる。俺は怖くなった。スティーブンも含め、みんなバージョンや型が違うのに俺はこの時みんなが同じロボに見えた。一体何故みんなが俺の方へ来るんだ?いつも通り仕事をすればいいじゃないか。何事もなかったように、何故そこに引っ掛かる。一体どういうプログラムなんだ。一番ロボの癖して魔法が使えている自分が一番困っているんだ。こういうのはデリケートなところでもう少し空気を、気をつかってほしいものだ。ああ、近づいてくる。


 おそらく、ロボが魔法を使うというのがどうも理解しがたくその疑問を解消すべく俺に解を求めているんだろう。俺の体に魔法石が入っているからと答えれば納得できるんだろうが、そうなると俺の今後はどうなるんだ?もういつものようにこの鉱山で働けなくなりロボとして俺は一生終えられなくなる。ああ怖い。俺はロボだ。同じだろ。ほら鉄の塊だろ?なぁ?俺はロボなんだよ。頼むよ、ほら魔法石が近くにあって、魔法石が反応して、まぁ俺の体にも入っているけど、とにかく俺はロボだ!!

ほら、みんな仕事、仕事をしようぜ!!


 俺はいつのまにか崖際に立っていた。俺は怖さあまり後ろへ退いた。

「ヒュー」

俺は落ちた。

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