いつも心に太陽を。死合から始まる攻略忌憚

@akira-sakaki

第0話 エピローグ サッカーがしたい

 小学六年生のアキラは、校庭のフィールドを見つめていた。小学校のサッカー部はアキラの生きがいだった。華奢な体つきとは裏腹に、彼女はどんなに疲れても走り続ける体力を持っていた。しかし、彼女には一つだけ大きなハンデがあった。家庭の経済事情から、スパイクを買ってもらえないのだ。サッカー選手にとってスパイクはチートアイテムである。走っていても急に止まれるし、ボールコントロールも向上する。

 アキラの父は工場で働いていたが、工場の経営が厳しく、給料が減っていた。母はパートで家計を支えていたが、それでも生活は苦しかった。アキラはそのことを知っていたので、スパイクをねだることはしなかった。彼女はいつも普通の運動靴で練習に参加していた。


 それでも、アキラは決して諦めなかった。チームメイトたちがスパイクで軽快に走り回る中、アキラは持ち前の体力と技術で彼らに負けないプレーを見せていた。彼女の得意技はパスカットだった。海外でカイザーと呼ばれた伝説の選手のような冷静な読みと素早い動きで、相手のパスをことごとく奪い取るその姿は、まるでピッチ上のカイザーのようだった。

 「アキラ、すごい!またボールを取ったね!」

チームメイトのジュリアナが歓声を上げる。アキラは照れくさそうに笑いながらボールを渡した。アキラはキャプテンではなかったが、そのプレーは点を取られそうなチームを鼓舞し、みんなの信頼を得ていた。


 ある日の放課後、アキラはいつものようにサッカーの練習に参加していた。コーチの田中先生がチーム全体に向けて指示を出す中、アキラは自分のポジションに戻っていた。田中先生は、アキラの持つポテンシャルを高く評価していた。


「アキラ、次の練習試合でも頼むぞ。君のパスカットがチームの鍵だ。」


 アキラは力強くうなずいた。彼女はどんなにハンデがあっても、チームのために全力を尽くすと決めていた。彼女の心には一つの目標があった。それは、自分の力で試合に勝ち、家族に笑顔を見せることだった。


 その夜、アキラは母に手伝いを頼まれて、夕食の準備をしていた。台所で野菜を切りながら、ふと母が話しかけてきた。

「アキラ、最近サッカー頑張ってるわね。田中先生から聞いたわよ。パス回しがすごいって。」

 アキラは照れ隠しに笑いながら答えた。「うん、でもまだまだだよ。でも、もっと頑張って、みんなの役に立ちたい。」

母は少し考え込んでから、アキラに向き直った。「ねえ、アキラ、スパイクのことなんだけど…」

 その言葉にアキラは驚いた。スパイクのことを口に出したことはなかったからだ。母は少し困ったように続けた。

「実は、父さんと話して、少し貯金を崩してでもスパイクを買ってあげようかって。でも、アキラがどうしても必要だって思うならね。」

 アキラの胸が高鳴った。スパイクを履いてプレーする夢が現実になりそうだった。しかし、彼女は深く息を吸い込んでから答えた。

 

 「お母さん、ありがとう。でも、今は大丈夫。運動靴でも私はやれる。いつか、自分でお金を貯めて買うよ。」


 母はアキラの言葉に微笑んだ。「そうね、アキラらしいわ。でも、何か困ったことがあったら、いつでも言ってね。」


 翌日、アキラはいつものように練習に参加した。普通の運動靴で走り回り、パスカットを決めるたびに、心の中で小さな誇りが芽生えた。彼女はハンデがあっても、自分の力で道を切り開いていくと決めたのだ。


 試合の日が近づくにつれ、チームの練習はますます厳しくなった。アキラは全力でボールを追い、仲間たちと共に戦い続けた。そして、試合当日、彼女はフィールドに立ち、決意を新たにした。円陣を組みいつもの声出しをする。

「今日も、全力で戦いましょう。ファイト オー。ファイト オー」

 アキラ達の瞳には、強い意志と希望が輝いていた。スパイクがなくても、彼女の心には無限の力が宿っていた。


 その日、アキラたちのサッカーチームは総当たり方式の試合に臨んだ。彼女の心は決意で満ちていたが、相手チームの実力は圧倒的だった。市大会や県大会の優勝校が集まる中、アキラたちのチームは設立してまだ一年目。練習環境も整わず、スパイクを買ってもらえない子供たちも多かった。


 最初の試合が始まった。相手は市大会の優勝校。アキラはいつもの運動靴でフィールドに立ち、仲間たちと共にボールを追った。試合が進むにつれ、相手のスピードと技術に圧倒され、次々とゴールを奪われていった。アキラは必死にパスカットを試みたが、相手の連携と技術に太刀打ちできなかった。

「頑張ろう、アキラ!」


 チームメイトのジュリアが声をかける。しかし、チーム全体が押し込まれ、守備に回る時間が長くなるばかりだった。結局、試合は0-5の完敗に終わった。アキラは悔しさを噛みしめながら、次の試合に備えた。

 次の対戦相手は県大会の優勝校。相手のプレッシャーはさらに強く、アキラたちのチームは再び防戦一方となった。アキラは軽めの竜巻が吹く中全力で走り回り、なんとかパスカットを成功させようと奮闘したが、結果は同じだった。試合は0-7で完敗。続く試合も全て敗れ、アキラたちのチームは最下位に沈んだ。アキラは吹っ飛ばされ、ケガした。


 試合が終わった後、アキラはチームメイトと一緒に悔し涙を流した。みんなの顔には疲れと失望が漂っていたが、それでも誰一人として諦めてはいなかった。彼らはお互いを励まし合い、次の試合に向けてもっと練習しようと誓った。


 帰り道、アキラは砂埃の舞う道を歩きながら、頭の中で今日の試合を振り返っていた。自分たちに足りないものが何かを考えながら、どうすればもっと強くなれるのかを思い巡らせた。家に着くと、彼女はすぐにシャワーを浴びた。強風の多いこの地域では、砂が風に乗って家の中まで入り込んでくる。髪を洗うと、ざらざらとした砂が流れ落ちる感触があった。


 シャワーを浴び終えたアキラは、リビングに向かいながら母に声をかけた。「お母さん、今日の試合、全部負けちゃった。でも、次は絶対に勝ちたい。」

母は優しく微笑んで、アキラの頭を撫でた。「アキラ、負けることも大切な経験よ。それが次に繋がるから。」


 アキラはその言葉に勇気をもらい、自分の部屋に戻った。試合で感じた悔しさと、それを乗り越えるための決意が胸に渦巻いていた。彼女はベッドに腰掛け、スパイクのことを考えた。いつか自分で稼いでスパイクを買い、もっと強くなってみせると心に誓った。

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