第二章 思いがけず発動
- 目の前に突如現れたのは、「フォーチュン」と名乗る妖精 -
イメージ的にはピーターパンのティンカーベル辺りでいいだろうか?まさに童話の妖精としか言いようがない容姿。かわいらしい。
「妖精?ナビゲート??」
「はい、定番ですね」
・・いや、定番かもしれないが、魔法があって妖精がいて?
「ホント、いったいどうなってるんだ・・?」
「?? あなたが望んだことですよ?」
その言葉に、「はっ?」とならずにいられない。
「・・俺が望んだから、こうなった?」
「はい。心から望み、さらに口にも出しましたよね?「魔法の授業があったらいい」そして、「どうしたものか説明して欲しい」と」
「・・確かに、そんなニュアンスの言葉を口に出したかも知れないが・・」
俺は、フォーチュンを指差し、言った。
「・・つまりこれは、君、フォーチュンが全てやったことなのか?」
妖精は、可愛らしい笑顔を浮かべ、答えた。
「違います」
違うんかい!?
「私は単なる案内役ですよ。こうなったのは、そこで寝ている望さんによるものです」
衝撃の事実を、あっさりとその妖精さんは言ってくれた。
「まてまて、望・・叶野によるものだと?」
「はいそうです。・・む?よく考えたら、案内役はこれでほとんど終わったようなもの?」
「・・・どうしましょう?登場早々に退場って、私、かわいそすぎます!」
「知らんがな!」
どうでもいいボケに対し、反射的に突っ込みを入れてしまった。
「・・まてまて、これで解決? 叶野はさっき、思いっきり動揺していたぞ?」
「それはそうでしょう。いきなり具合悪くなった上に魔法だとか言われたら、多分誰でもそうなります」
腕を組んで、うんうんと首を縦に振るフォーチュン。
「・・おい。ついさっき、叶野がやったって言わなかったか?何でやった本人が動揺するんだ?」
「む。 私は「望さんによるもの」とは言いましたが、「望さんがやった」とは言ってませんよ。言葉は正確に」
「・・なんとなくその発言に理不尽なものを感じるが、・・それはさておき、「叶野のせい」ではあるが、「叶野がやったことではない」?」
「むむ、だから言葉は正確に。望さんのせいではないですよ!むしろ望さんは被害者で、原因はあなたにあります!」
「・・・それは、俺が、望んだからか?」
「そうです!望さんは感謝されても、怒られる立場じゃないですよ!」
「言いたいことを言い切った」と言った感じのフォーチュンは、ふぅと呼吸を整える。
「でも、こんな形で「フルフィルウィッシュ」が発動したおかげで、私はここにいれるわけだし・・・はっ、こんな風に思うなんて、望さん、すいません!」
「まてまて! なんかさりげに、新しい単語出さなかったか!?」
「は?」
フォーチュンが冷めた目でこちらを見る。いや、何でここで、そんな表情なんだよ。
「フルフィルウィッシュですか?私が勝手につけた名前ですが、なにか?「他者願望成就」なんて、やたら画数が多い名称言ってられません。」
「話し言葉に画数関係ないだろ。 ・・って、今、何気にものすごいこと言わなかったか?」
「何気にじゃなく、すごいんですよ。 望さんは」
エッヘンと胸を張るフォーチュン。その仕草までかわいらしいのは何だが、それどころじゃない。
「他者願望成就」? 魔法云々なんかよりとんでもない能力じゃないか?
・・俺は信じられず、夢かどうか確認するためとりあえず、
ピン!「いたっ!」
「何でいきなり、デコピンすんのよ!?」
「目の前のとんでも存在をデコピンしてみたっと。・・おお、現実だ」
「そこは普通、頬をつねるとかでしょ!?」
「・・そんな小さな頬をつねる技術は、残念ながら俺には無い。」
「ジ・ブ・ン・ノ、頬をつねりなさい!」
なんともほのぼのしたやり取りだ。・・だよな?
こんなどうでもいいやり取りは、正直、魔法学や妖精の出現、さらにはとんでも能力まで聞かされた俺の精神的には悪くない。・・はっ?まさか、そこまで考えてこいつは、
「・・いや、それはないな・・・」
「なぜだか思いっきり馬鹿にされたような気がするーー!」
「冗談はさておき、叶野には「他者の願望を成就させる」能力があると?」
「む、いきなり真面目になっても私は根に持ちますよ。でもまぁ、その通りです。」
「・・それって、とんでもないことなんじゃないか?」
「だからさっきから、すごいって言ってるじゃないですか!」
可愛くぶーたれるフォーチュン。
「でも、そんな神様みたいなことが出来るんなら、何で普通に高校生なんかやってるんだ?」
「他者の願望なんだから使い勝手は微妙かもしれないが、・・言っちゃ悪いが、良い方でも悪い方でもやりたい放題だろう?」
パッと思いつくだけでも、いい使い方としては困っている人を助けたり、不治の病の患者を治せたりもするだろう。・・悪い使い方は、あまり想像はしたくないが、それこそ際限なく欲望の限りができるだろうし・・
「その理由は簡単です。・・・気づいていないのです、望さん自身は」
「気づいていない?自分が「他者の願望を叶える」能力を持っていることに?」
「はい。そして自分がその能力を発動しているかどうかも・・ただ、唯一わかっていることは、」
フォーチュンは、望の方を心配そうに見つめながら続ける。
「・・この能力が発動している間、体力と精神力が著しく落ちるんです。だから、望さん自身や周りの人は、望さんのことを病弱と思っています。」
「なっ!?」
俺もまた、ベッドに横たわっている叶野の方を見る。他者の願望―今は俺の願望か―を叶えることで、自身がこんな風に苦しむことになるなんて・・
「・・今までどんな願望を叶えてきたんだ?何か法則とかあるのか?」
「叶える内容自体に法則は無いようです。・・ただ、傾向的には、望さんの近くで強く、かつ共感できる願いが叶っているようです」
「・・・そしてこれまで、何度も無意識に能力を発動させては、倒れたりしていました・・」
「じゃあ、今回の俺の願いもそれに該当したってことか?」
「恐らく、そう言う事でしょう。・・あなたの独り言が招いた結果ですよ。大いに反省してください!」
「ちょっと待て!独り言ってトイレのか?あの時、周りに誰もいなかったはずだぞ?」
「たまたま近くを通りかかって、聞いてしまったのです。多分その後教室に戻って、「さっきのはなんだったんだろう?」とか思っているうちに発動してしまったってところですね。不用意な発言のせいで・・不憫です、望さん・・」
「うっ・・・独り言に対して文句を言われるのはなんだか釈然としないが、結果こうなってしまったのには、素直に謝る。」
俺はフォーチュンに対し、頭を下げて謝る。いやこの場合、叶野にか。俺は叶野に対しても頭を下げる。
「・・・意外と素直なんですね。もっと色々、ごねるかと思ってました」
「・・まぁ、俺も普段から素直とは言わないが、自分のせいで具合が悪くなったとあっちゃあ、さすがに謝るくらいはするさ」
「えと、ヒダカ・・さんでしたっけ?」
「勇二でいいぞ。俺もフォーチュンさんとか言いたくないしな」
「むう、確かに望さんをこんなにさせた人物を、「さん」付けまでする必要はありませんね。ではユージで。」
「ぅぉい、そこまで言うか?・・ん?そういや、俺、お前に自己紹介したか?」
「・・いきなりお前呼ばわりですか・・まあいいです。したじゃないですか? さっき望さんに」
「叶野に?・・まぁ、確かにしたが、そのことをお前は知っているのか?」
「何を今更。私は望さんのことは何でも知っていますよ。さっき能力のこととか教えたじゃないですか」
「いや、当たり前のように言われても・・というか、フォーチュンって、結局、叶野にとってどんな存在なんだ?」
「わたし?私はただの可愛い妖精さん」
「言うと思ったが、とりあえずボケは無しの方向で」
そう、この自称妖精フォーチュンは、叶野のことについて知りすぎている。本人が知らないことまで知っているのだからな。俺の勘が正しければ、
「・・なんとなくユージも気づいているみたいですね。そうです、わたしはユージの「今の状況を教えて欲しい」という願望が産み出した存在、と言ったところです。」
「・・やっぱりな。通りでタイミングが良すぎると思った」
まさに状況を説明して欲しいと思ったところで、出現したからな。
「叶野の知らないことまで知っているのは、俺に状況を説明するのに必要だからか?」
「多分。でも、こんな風に「フルフィルウィッシュ」の能力が継続しているのは、実は初めて。・・今まではたいていすぐに願望は叶ったから・・・」
いったい、どんな願望が今まで叶えられたのか正直聞きたくはある。が、フォーチュンの表情を見る限り、あまり言いたい内容ばかりではないのだろう。
「・・叶野がこれほど具合悪いのが続いているのも、初めてという訳か。それは、大丈夫なのか?」
「・・わからない。今までこんなこと無かったから・・」
無意味なことを聞いてしまった。確かにそうだ。
今までの事例が無いのだから答えられるはずが無い。ひょっとしたら慣れて回復するかもしれないが、このままという可能性も十分ありえる。・・最悪の事態も、想定しないのは、単なる逃げに他ならない。
「・・・で、どうすれば叶野は助かる?いや、助かると思う?」
フォーチュンはハッとなった表情で、俺を見る。
「・・いいんですか?あなたの願望が叶っているんですよ?」
「良いも悪いも、確かに魔法は今存在しているかもしれないが、俺は使えないんだ。そんなので見知ったやつが体調崩したって言われてもなぁ。・・って、ん?」
「「それだ!!」」
俺とフォーチュンは同時に言った。ハモルってやつだな。
「魔法は存在しても、本人が使えないんじゃ、意味が無い。」
「つまり、本人も魔法が使えるようになれば、」
「「願望は叶ったことになる!」」
おおよそのめどは立った。つい力が抜けて、イスにへたり込んでしまう。
「・・ということは、あのちんぷんかんぷんな魔法のやり方を勉強するのが、今の俺の役割のようだな」
「それも早急にです。望さんの容態が悪化しないうちに。」
「その望には、なんと伝えればいい?」
「・・・・・・・」
さて、どうしよう?
このまま目覚めないとは思いたくないが、目覚めたら十中八九、自身の体調のこと含め、何故こうなったのか知りたがるだろう。となると、俺が魔法の授業があったらとか言ったせいで体調がおかしくなったと知られて、いやいや、もともと望の能力によるものだし、というか、「他者の願望成就」なんて能力を信じるか?信じたとして、それは良い事なのか?自分がそんなとんでもない能力を持っていると、いきなり言われたらどう思う?
「あああ! メンドクサイ!!」
「!!?」
俺はいきなり大声を上げた。突然のことにビクッとなるフォーチュン。
だが、俺は考えるのは嫌いじゃないが、考え込むのは苦手なのだ。しかも数学のように確実な答えがあるのでないことならなおさらだ。考え込んで出した答えが正解だと誰が保証してくれるんだ?
「とにかく、俺のせいだというのなら詫びる!魔法でも何でもすぐに覚えてみせる!そして望が知りたいことなら、本人のことなんだ、教えられるだけ教える。それだけ!」
「・・なんて単純な・・」
呆れた表情で、こちらを見やるフォーチュン。
「・・でも、そうだね。・・自分のことだ。自分で何とかしないと・・」
いつの間にか、望が目を覚ましていた。
「望さん!大丈夫なんですか?」
「うん、大丈夫。・・・妖精?」
「あ、はい。・・はじめまして、ですね。妖精のフォーチュンと言います!」
慌てて自己紹介をするフォーチュン。そうか、俺の願望から生み出されたわけだから、望は知らないって事になるんだよな。でも案内役の妖精だから片方は本人が知らないことまで知っている。・・なんともややこしいな。
「・・あんまり驚かないんだな。聞こえていたのか?」
「うすうすとね。・・さすがにさっきの「メンドクサイ!」からは、全部聞こえていたけど。」
「ああ、まぁ、そうだよな。・・・すまない」
俺は改めて、頭を下げる。
「謝ることじゃないよ。日高君の言うとおり、自分に関わることなら知っておくのは、きっと権利であり・・義務だよ」
「・・・勇二でいい」
「え?」
俺はちょっと気恥ずかしくなり、頬を掻きながら続けた。
「・・俺のことは勇二でいい。多分これから一緒に行動することになるだろうからな。俺も望と呼ぶが、構わないよな?」
「あ、うん、別にいいけど・・」
「納得いきません!」
・・ただ妖精さんは、なんだか怒っていた。
「望さんがユージのことを呼び捨ては別にいいでしょう。というか、それで十分です。でも、望さんのことを呼び捨てだなんて、そんなうらやましいこと許せません!」
「・・・・・」
俺は無言で、興奮している妖精さんをパシッと掴むと、
「・・とりあえず今度は二発だな。」
左手で掴んだまま連続デコピンを喰らわせる。
先ほどと違い、身体を固定させてあるから威力は増しているだろう。
「・・・ほ、星が見えて意識が、意識が~。妖精虐待、カッコヨクナヒ~~」
「安心しろ。少なくとも日本に、妖精虐待に対する法律は、多分無い。」
「・・いや、そういうことでもないと思うんだけど・・・」
俺とフォーチュンのじゃれあい(俺視点)を苦笑いで見る望。むう、俺は何気に可愛いものには手を出してしまうタイプだったのか、と思ってみたりしたが、とりあえず関係ないので思考から外す。
―ちなみに、後から仕入れた情報によると、魔法が存在するためか妖精もまれに見られるらしい。そして目撃例が少ないことから、ほとんど絶滅危惧種扱いになっており、それに対する虐待はうんぬんかんぬん・・つまり俺は、犯罪めいた行為をしたことになるわけだが、・・・このときの俺は知らなかったのだから、良いことにしよう・・・―
「でだ。結論から言うと、望には他人の願望を叶える力があるらしい。その代償が今のような疲労」
「今は俺の「魔法の授業があったら良いな」という望みを叶えているため、こんな状況になった。と、そういう状況だ」
「・・え?」
「言った!この人、案内役の私に出番を回さない勢いで、端的に一気に言っちゃった!」
唖然と俺のほうを見る望とフォーチュン。多分、前者は内容に対して、後者は俺が一気に言ったことに対して唖然となっているんだろうな。いや、でもわかりやすかっただろう?
「え?・・僕が他人の願望を叶える力を持っている?魔法とか知らないのに?」
「私の出番を返せ~!」
「・・順序が逆だ。望、どうやらお前は元々「他者の願望を叶える能力」っていうのを持っているらしい。それが昼休みに俺が言った独り言を聞いたせいで、「魔法の授業のある世界」と言う、今の世界を産み出したようだ。」
そしてとりあえず話が進まないので、ちっこいのの主張は無視。
「魔法の授業?・・確かに昼休み終了際、教室に戻るときの廊下でそんなのを聞いた気がするけど」
「・・おそらくそれが原因だ。きっと無意識下で能力を発動してしまったんだな」
「で、でもそんなファンタジーみたいなこと・・」
「魔法があって、妖精がいる。もうすでにファンタジーだろう?その原因がやっぱりファンタジーでも、・・まぁ、仕方ない。」
「いや、でも僕が原因ってなんでわかるの?今日始めて会ったばかりなのに?」
「その質問についてはフォーチュンが答える。」
「えっ?ここで私に振る?」
今まで横で俺に対しワーワー騒いでいた妖精に、俺はいきなり話を振る。・・ここはマジだ。
「・・・望に教えてやってくれ。一、二件でいい。今まで、この能力を使った内容とその結果を。もしそれを覚えていて、今と同じように体調を崩していたら、それが証明になる。」
「あ・・・」
「・・・・・・・」
夕暮れの保健室に静寂が降りる。
俺も望も、ただフォーチュンを見る。
「・・・言わなきゃダメ?」
「・・お前が正しい案内役ならな。残酷かもしれないが、望を信じさせるには、実体験を突きつけるのが一番だろう?」
「それは・・でも・・・」
「・・いや、言わなくても良いよ、フォーチュン」
動揺し躊躇するフォーチュンを望が制する。
「・・確かに、僕は今まで何回かこんな風に体調を崩したり、倒れたこともあった。でも今考えたら、その度に近くの人の望みが叶っていた気がする。」
望がフォーチュンを慰めるように見やり、つぶやく。
「・・・奇跡としか思えないようなこともあったしね・・」
「! 望さん!!」
泣きながら望の懐に飛び込むフォーチュン。俺はその様子に、正直ちょっとウルッときてしまった。
「・・よし!じゃあ理由がわかったところで、次は解決法だ!」
感動している自分を見せるのはなんとなく恥ずかしい。あえて大声で言う。
「魔法を覚えて、使えるようになるんだね」
「望さんのために、とっとと覚えてください。」
「・・・」
とりあえずこの「望大好き生意気妖精」に、いま一度、天誅を加えようとした矢先、
ガラッ
「戻りました。日高君、叶野君の様子はどうですか?」
保健室の先生が戻ってきた。
やばい、フォーチュンが見つかる!いや、魔法がある世界だから妖精とかも普通にいるのか?
などと一気に考え、慌ててフォーチュンの方を見るが、すでにいない。・・上手く、隠れたのか?
「あ、はい! の・・叶野君もさっき目が覚めて、とりあえずは大丈夫なようです。・・だよな?」
「ぇ、あ、うん。お、お騒がせしました。」
何事もなかったかのように、俺はパイプ椅子から立ち、望はベッドから降りる。実際、病気・・というわけでは多分ないから、保健室に留まる訳にもいかないだろう。
「そう。良かったけど、無理はしないでね」
人のいい保健室の先生にお礼をいい、保健室から出ようとする。
が、俺はふと思い立ち、こんな質問をした。
「あの、先生。・・飛鳥井先生って、職員室にまだ、いましたか?」
たった一つ違う授業 Syu.n. @bunb3
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