思いを継ぐ者 参
それは
「……なんだか母親に似てきていないか、あの子」
「ハハハ、そうかなあ」
どこか常識に無頓着な子どもを前に顔をしかめると、養父の
「お前……ちゃんと食っているのか?」
「
その友の言葉に、
「あの
ぽつりと言葉を落とす友に、
「あの子を引き取ることにした理由だよ。地位や名誉があっても、誰もいないことは寂しい。だから、地位や名誉を捨ててあの子を選んだんだ。でもまさか、自分が置いていく側になるとはなあ」
名も決めてあるのだ、と彼は言う。途絶えてしまった家族の思いを、変遷を継ぐ、と言う意味で「
(このままでは)
このままでは、この友すら、誰の記憶にも残らない。その存在があったのだと、誰に知られることなく、ひっそりと消えて行ってしまう。
――彼のために、この孤独な友のために、何ができる。
「貴方はこの男とは違う。
友を生贄としたあの先々帝によく似た、凡庸で愚鈍な今上帝。
だが
「私は今の生活に満足しているのだよ。言ったよね。私は幸せだと」
「満足なさらないでください。貴方は世に知られるべき御方。貴方にはその責務がある」
だが当人は元服したのち、あらゆる政争において「不干渉」を誓った。本来は
そのことを
「まあ、よく考えたよね。皇后に
むろん、それだけではうまく行かなかっただろう。
まず第一に、
くわえて、協力者だ。
近衛府で味方を着々と増やし、手薄になった警備を自称
「良くも悪くも、
はっと
「もう一度言う。その手を離しなさい」
「その命には従えません」
痛みはない。かわりに、きいん、と刃の重なる耳障りな音が響いた。
「な……!」
唖然とした
「お前、葬儀で皇后をさらった」
「失礼」
短くその黒装束が言い放つと、
「く……!お前、なんなんだ」
悔しげに唸る
二刀流の使い手らしい。その立ち姿には隙がなく、手練れだと武人でなくとも察せられた。
「この、クソ!」
黒装束がひらりと
からん、と面が床に放られ、淡い月光のした、その顔が露わになった。
「お前……ウツギか?」
それはざんばらに束ねられた白銀の髪に、赤銅に日焼けたひたいに二本の
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