思いを継ぐ者 弐
その日は、雨の打ち付ける薄暗い夏の日。皇后の懐妊に安堵した側近たちが抱き合ったその日の夜だった。
すでに
ではなぜここにあるのか。
彼らが寛子をよく知る人物で、今上帝が気を許しているから、という理由だけでこの緊迫感溢れる清涼殿へ呼び出されたのである。とばっちりもいいところだ。
「は……?陛下。もう一度おっしゃってください」
問い詰めるのは、関白である
そう、もう一度繰り返す陛下に、
「ちょ、陛下。いくら貴方さまがお姉さま至上主義でも、やっていいことと悪いことがございます。妃さまがたを蔑ろにして、実の姉気味と交わるなんて……」
前代未聞だ、と側近たちは頭を抱える。それに対し、その姉君本人だけはけろりとしていた。
「妊娠というやつを経験してみたかったのじゃ」
「なに巫山戯たことを……!お立場をお考え下さい。経験なさりたいならどなたか殿方と手順を踏んでですね……」
「知らん。婚姻はするつもりはない。面倒じゃ」
あっさりと跳ねのける
「あの、
「産んだら用事はない。海にでも還せばよかろう」
この人でなし!などと今さらである。それよりも、この姉弟の夜を許してしまった
「本当にお前たち、記憶にないんだね」
「おおかた、
「……
「しかし、妊娠ね。そこに興味があったとは盲点だった」
さすがの
「逆に、他のことだったらありえたのか」
「
「……ありうる」
ここで否定できないのがおそろしいところだが、それが現実なのである。
ふいに、
「肚の子を、別の者との子としてはいかがでしょう。ならば、問題ないでしょう」
帝の子、となると姉弟の間の子というだけでなく、とにかく扱いに困る。なまじ血筋が良すぎてしまうのだ。今の皇后は
ならば別の男との間の子、としてしまえばよい。
「
皇女の多くは独身で生涯を終える。それはなぜか。境において、ことに魂の性質を決めるとされる「血」は重要視される。ゆえにもっとも尊い血筋である
「
きっぱりと言い放つ
「ならば、私がその面倒ごとを受けよう」
あっさりと言う
「お前、何を言っているのかわかっているのか?」
「むろんだ。でもこのままでは埒が明かぬし、もっと地位の低い男になすりつけて死罪は哀れだろう。私ならば
「それは、そうだが……」
神官の術を扱えるものは重宝される。ゆえに
「私にはまだ妻はないし、
「しかし……」
「それでよろしいかな?」
自分から将来を投げうってくれるならば万々歳、と言わんばかりにあっさりと了承された。
そののち、皮肉なことにも皇后の子と
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