思いを継ぐ者 壱
先々帝の御代は早く、そして短い。
「本日より陛下の側仕えの任を承った、
よろしくお願いいたします、と平服する
「う、うむ。宜しく頼むぞ」
「は」
仕方がないと言えば、仕方がない。
この
加えて、この陛下は生まれてこのかたずっと「自分は凡庸で愚鈍である」と痛感しながら生きてきたのである。
「なんじゃ。おぬしも侍従になったのかえ」
「……
振り返れば、同年の女人の姿がそこにある。
狐のように胡散臭い目をした女で、絶世の美女というわけでもないのだがどうにも人目を惹きつける雰囲気がある。彼女こそが
「あのう。いちおう裳着を済まされた
「なんじゃ、
「博士、泡を吹いて倒れましたよ」
裳着を済ませていなくても、皇族の姫がうろうろしていれば誰でも生きた心地がしないだろう。
「ふん。おなごに論破されるような博士は一から学びなおしたほうがよいじゃろうな」
「貴女に言われたら誰もが一から学びなおしですよ……」
はあ、と
文武両道で、学問だけでなく武術も達者。年に一回の武術大会も飛び入り参加して、屈強な兵士たちの自信をぼっきり折ってお帰りになる、嵐のような女人だ。ゆえに同い年の弟である
「姉上、今日はいらしてくださったのですね。先日から
「ふん。今日はそのことでひと言言いに来たのじゃ。毎日毎日、こんなつまらん男を送りつけおって。やるなら一つ目や三本足の人間でも寄越せ。でなければ
そんな無茶な。つまらない男と一蹴された
「ハハハ!ならば私と手合わせ願えないですか?」
突然に差し込まれた若々しい男の声に、
いつの間にか、部屋にもうひとり通されていたのである。がっしりとした体躯の、なかなかの美少年。おそらく
「おいお前、陛下の御前であるぞ。挨拶もなく失礼ではないか」
「これは失礼。私は
からからと笑いながらも、さっと膝をついてこうべを垂れる所作には品がある。帝にはかならず八人以上の侍従がつけられるが、その八人というのは従八家のそれぞれの代表とも言える。その代表に相応しいだけの教養がこの少年にも施されている、というわけだ。
「そなたが
「は。――して」
にやりと笑い、
「
「ほう。
だからここは陛下の御前だって、と声を掛ける
悲しいことか、今上陛下まで「姉上の勇姿をぜひ見たい」などと言い出す始末で、大内の裏手、
公務はどこ行った?などと問うてはならない。この自信喪失陛下はその原因を恨むどころか信奉しているのだから。たまにこうして会わせてやらないと、「やる気が出ない」ともとより存在しないやる気がいっそう失われてしまう。それにそもそも、まだ若く自分で判断できないのも相まって、多くは関白である
だが、
「え、お前。神官の術が使えるのか?」
呆気に取られた
「とは言っても、
「いやそれでも十分すごいことだと思うが……」
と添える
「それに私は武官志望だから、神官の術ができてもなあ」
「これで学識もあったらさすがに私もイラっとくるぞ」
「大丈夫だ
威張って言うことではない。呆れ果てていると、
「とにかく、これからよろしく」
――そう、あの日までは。
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