虚ろな目 参
人払いをしたらしい。清涼殿はしんとした静寂に包まれていた。
帝の昼時の居所である
「やあ。昨日ぶりだね、
「
「お伝えしたいこともあったからね」
「ほう。よい知らせであることを期待しよう。それよりはまず、皇后がそこの子どもに礼を述べたいらしい」
「
手を口元にそえ、ふふと笑う。少年は口籠った。こういうとき、どうすればよいのかを知らなかったのだ。
――ありがとう。
それは、こちらが何かをしてもらったら言う言葉なのだと思っていた。感謝とは不思議なものだ。少年は皇后の真似をしてこうべを垂れた。
「ありがとうございます」
「あんなに強くてもやはり、子どもですわね」
たどたどしい少年の様子を好ましく思ったのか、皇后はころころと笑った。
「さて、本題に入ろう」
「今回の一件だが、すべてを狩ることは難しいだろう。なにせ、その理由はよくわからぬが――
この男社会の
とにもかくにも信者とも言える彼らはいったいどうしたことか、その実子である
「まったくいい迷惑だよ。私は平和に暇な時間を謳歌したいというのに」
「貴様はもう少し働きたい気分になれ。ボケるぞ」
後ろからぼそりと悪態づく友人に、
「ならいっそ、
と
「それこそ冗談だ。私は
自分は何でもそつなくこなすが、とくに何かが光っているわけではない――嫌味にしか聞こえないその言葉に
断られることをすでに
「どちらにせよ、神官で
「重要な役職を妥協するのはよくないよ」
「そこで、です」
だしぬけに声を大きくして言う
「どうした、
「はい。私はこのウツギを養子に取ろうと思いまってね」
「…………はあ?」
少年は思わず声を上げていた。
大きな手ががしりと少年の両肩をおさえ、逃さない。
「この子はよく働き、物覚えはよく、何よりもすでに
「そうだが……鬼子の神官、というのは」
彼らの視線は、
「故、
問題ないわけがない。それは
「あの……。そんなこと
少年は困惑顔をし、顔だけ振り返って
「地位ある立場ならより、その
「それは……そうですけど」
「それにね。私が
自分にとっても都合がよいのだ、と続ける
すると、皇后が両手を合わせて顔をほころばせた。
「わたくしは賛成ですわ。その子の才を野放しにするのはたいへん勿体のうございます」
「……認めよう。ただし、そのことで朝廷が荒れるようであれば、その件はなしとする」
さらに
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