魂呼び 弍
ウツギは
「
「まあまあ、
年数で考えたくなるほどに帰宅していなかったのである。
初めてウツギがこの屋敷を訪れたときも、周囲に住む者たちが「ここ、人が住んでいたのか」と唖然としていたので、本当にめったに帰ってこなかったのだろう。
ウツギは何とも言えぬ顔をしながら、籠をひとつ置いた。
「
「あらまあ。あと少ししたら一年だったねえ」
「あとこれ、
「さすがは
そくざに出てくる名前が主人ではなくその随身である。じっさいにその通りなので、ウツギもとくに訂正しない。ふたりで手分けして食材の調理を始める。
この梅という老女は
ウツギは老女が手際よく調理するのを見届けると、
「俺は部屋の用意をしてくるので、ここはお願いします」
と言って
やることは他にもまだまだあり、そしてこの屋敷はとにかく人手が不足しているのである。
数枚の畳をひとりで担ぎ上げ、とたとたと走る。
その途中、皇后について
「あ。
「構わないよ。体を動かすのは性に合っているしね」
正殿へ辿り着くと、先に
「お前、下女の真似事なんてして」
その声で振り返れば
「
「父上、突っ立っているなら手伝ってください」
「父に向かってお前……」
顔を引きつらせる
「ちなみに、
「はあああ、いつの間に!それを早く言わんか!」
「父上、布巾……」
娘が呼び止めるも、布巾を放り捨てて走って主人のもとへ。あの発言からして、ふらりと消えた主人を探し回っているのだろう。倉でもああして時々主人を求めて彷徨い、
「父上、元気だなあ。いつもあんな感じなのかい?」
「いつもあんな感じですね」
「へええ。こっちも帰ってこないから知らなかった」
ようやく慌ただしさがなくなったころにはすっかり空は橙色になっていた。
それらしく整えられた正殿に
「そうだ、ウツギ」
ことりと箸をおき、
「なんでしょうか」
「実はね。今日は皇后に話があって足を運んだんだよ」
理由がないと自邸に運ばない家主とは愉快な話である。
「はあ、それで。俺には何の話があるんでしょうか」
わざわざこうして少年にも話しているということは、何かをさせるつもりなのである。縫い終え、糸を歯で千切ると、ウツギはようやく顔をあげた。
「三日後の
「葬儀、ですか」
「そう。皇后も帝のともに参列することになってね」
「わかりました。すぐそば、というのは立場的に難しいかもしれませんが、ついて行きますよ」
言い終えると、急ぎ
誰かの足音がしたのだ。妻戸の外から
訪れたのは宮の女房のひとりだ。
「
深々と座礼する女房は走ってきたのか、かすかに息が荒い。ウツギはなぜ呼ばれたのかを理解し、すっと立ち上がった。
「すぐ参ります」
「私たちもついて行ってよろしいかな?」
部屋を出る手前で
そのかたわら、
「さ、
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