雁舞の家 弍
小柄な公達は一瞬、ウツギを見て顔をしかめた。
「
「はあ、まあ」
何とも言えぬ少年の答えにいっそう眉間の皺を刻んだが、指摘するのも面倒になったのだろう。小さく息をつき、ずいと一枚の
「
「返信、ですか」
「そうだ。必要なときも読まず塵紙にしているんだろう。顔に叩きつけてでも返事を書かせろ」
三日以内に文を寄越さなかったら、
「……必ず、言伝しておきます」
「そうしろ」
ふんと鼻を鳴らすと、少し何かを考えたような素振りをして、ウツギをまた見た。
「少し付き合え」
「え」
「お前も
この男は、ウツギがただ
何も応えず押し黙る少年に、
「詳しいことは知らんが、何かしに来たのだろう。あの
「よくご存知なのですね」
「同年だからな」
確かに、彼らは同じ二十五である。だが年齢と理解がなぜ一致するのかウツギにはわからない。だが、とにもかくにも、この男がどこへ連れて行こうとしているのかを知るのが先であろう。
「それでどちらに伺えばよろしいのですか」
「
思わず、「はあ?」と声を上げてしまった。
「あの。
「たまたま市で遭ったとでも言えばいい」
そんな馬鹿な。なぜ
しぶしぶ後を追って屋敷を出れば、この男も徒歩らしい。史紀とは別の方角で彼もかなり変わった公達で、とろとろ進む牛車が耐えられないとのことだ。なるほど、すたすたと大股で歩く速度が貴族らしからぬ速さで、まだ子どものウツギは自然と小走りになる。
ここ、
歩きながら何を思ったのか、
「
出掛ける理由を今さらに説明しているつもりなのだろうか。ウツギは首を傾げながらも、「はあ」と相づちを打った。
「確かに……
「あの御方はとにかく
「はあ」
その従兄弟の世話焼きをしているのだから、
「あ。
入ってすぐ、庭園で遊んでいた少年ひとりが声を上げた。なんと
その相手をしていた女房たちのなかにはもうひとり、
「おや、
少女はその切れ長のまなこをウツギへ向けると、きょとんと瞬かせた。
「その奇っ怪な格好のは誰です?」
「
「ここ
いないならよい、と返すと、
いわく彼女は今年十四になる
「ちなみに他にも子がいるが、上の娘ふたりは嫁ぎ、長男は
「そうなんですね……」
考えてみれば、
ふいに、
ウツギは「はあ」と返事をしながら、その医師の胸に下げられた朱色の組紐飾りに目を留めた。
皇后の女房や自分では身につけていないものの
「どうした?」
突然に立ち止まった少年を
ふたたび少し歩くと、正殿の
家主のない部屋はがらんとして、よく整えられている。ここの家人は念入りに掃除をする性格らしい。埃も被っていない。しかも
「あの、これなんですか」
「お前の主人が、ついでに取ってこいと文に書いていた品だ」
なんと、
「さて、後は
ひと通りの用事も済んだしな、と続ける男に、ウツギはきょとんとする。
「ひとりでも大丈夫ですが」
「ついでだ。葬儀の執り行われる場所の事前確認をせねばならないのでな」
「葬儀、ですか」
「そうだ。
近々、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます