夏の来客 参
声主は、
開け放たれた戸のかたわらに立つ彼のその背には
そんな随身を
「
「そりゃ毎日暑いですが、なぜここに弟が」
唖然としながらも中へ入り、ばちりと実光と目が合う。すると今度は眉間に皺を寄せて顔を歪めた。
「うげ。
クソ野郎までいるのか、と付けかけたが、理性が米粒ほど仕事をしたのか、萎んだ小声で続けるに留めた。むろん口にはしているので耳に届いており、
「変わらず犬畜生の精神を耕しておるようだのお」
「半端な
そこには見えない火花が散っている。
そのかたわらで
激しい火花を散らし合うふたりを前に、
「
「ご冗談を。
早口で捲し立てる
「そうだったっけ。と言ってもさほど年の差なんてないだろう。というか今のだとまったく訪問の理由がわからないよ」
「違います。私は貴方さまと同じ二十五で、あっちのふたりとは
何やら年齢の話もごたまぜだが、文に関して言えばその通りすぎて返す言葉もない。
「悪かったよ。ほら、たいてい届くのは最近いかがですか?みたいな内容の薄い
はあ、と深々と息を落とすと、いまだに睨み合うふたりのうち、従兄弟である
「どうせお読みになっていないだろうと思っていましたから、
まさかのスペアの持参。しかもすでに何回かやったやりとりのようである。
「ああ、なるほど。却下」
「それを却下します」
「じゃあそれを却下」
幼子のような言い合いを
「あのお、
「その提案を却下する!」
もはや
ずかずかと畳上で座す
「
止めに入った彼の言葉に、冷静に剥きになる?とウツギは首を傾げたが、注意された当のふたりは無意味な言葉の掛け合いをあっさりやめた。だがその一方でぼそりと
「
などと嘲笑うと、
「黙れ
おお、声色がいつもとちがう。
随身の声とは真反対の明るい声で呟く主人に、客人ふたりはがくりと気抜けしたようなおももちをした。
「……それで、何を却下するしないを揉めていらっしゃるのです」
何とも言えぬ空気の中、こほんと咳払いして
「実は
「
「さあ。
この倉のなかでは忘れかけていたその名に、
「
眉を寄せる
その死体があがったとき、血まみれの奇妙な人影があったというのは町人の証言から明らかになっている。むろん、その奇妙な人影が最たる容疑者であり、
だが問題はその者の「裏」にいる者である。
「……なぜ、そのようなことを
「相談しづらいのでしょうなあ」
「だからなぜ」
「春先に、
横から小柄な客人が言葉をさしこむ。
知っていると忠行が首肯すれば、その客人はすぐに言葉をつぐ。
「その直前、皇后がちょうどご懐妊になったのです」「それとこれに何の関係が」
「皇后はいまだ皇子をお生みになっておらず、ゆえに
「……神祇官にも腕の立つ神官はいるだろうに」
その疑問は愚問だ、と口にした当人も気がつき、口をつぐむ。
「彼女は「
とこぼされた
「なるほど。その依頼の直後に
「さようでございます。それこそ、やりそうな家門と言えば、
脂ぎったにやにや嗤いを向けられ、小柄な公達はぴくりと眉を震わせる。
「そんな卑怯な真似、我が家門がすると」
「
「不都合な結果を隠すためにそちらがやったかもしれぬではないか」
今度は客人同士で火花が散らされる。なるほど。帝が相談できないわけだ。
「……ああ、うん。状況はわかったよ」
と
「それにしても、私に相談するのはお門違いだよ」
「貴方だからではないですか。貴方は
「ならば、その相談に乗るはずもないこともわかるだろうに」
「だからこうして直接お願いにまいったのでございます」
「ならば申し訳ないが、答えは「
何を言っても結論は決まっている。
すでにこの倉を訪れる前からその予感がしていた
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