夏の来客 弍
ただの職場であるはずのこの倉には
その理由を知ったのは
昼下がりになっても自宅に戻らず、まさかの倉のなかで
「お役人というのがどんな方なのか全然知りませんでしたけど……勤め先って住処になるんですね」
などと問うと、
「そんなわけないでしょう。お屋敷に誰もいないうえ、
「はあ」
ゆえにいまだに
近所には
最後の文を手にすると、ウツギは「あ」と思わず声を上げ、立ち上がった。
不思議そうに
外はジリジリと蝉の喧しく鳴き、鬱蒼としげる緑のすきまから濃い群青がのぞき、ちらちらと強い夏の
一直線に
そこには苦労してここまで登ってきたのか
先ほど目を通した
あの冬ごもりから目覚めたばかりのような、ぼやっとした男はとにかく
それで時々重要な報せを見逃すものだから、普段は随身の
「ここは相変わらず人がいないですね」
「そうですなあ」
言葉を交わしながら降りてきたのは、
つと、小柄で若い公達がウツギに目を留めた。
「そこの者。
「あ、はい」
思わず応じてしまったが、
だがこちらが答えを出すよりも先に、ずかずかとその小柄な公達が歩き寄ってきた。
「見ない顔だな」
「少し前から
「その
「顔にひどい
指摘されたらこう答えなさい、と
「娘のような言い訳をする
ああ、やっぱり。
倉のなかの散らかり具合や
「承知しました。急ぎ伝えに行ってまいります」
これで時間を稼ぐしかない。
ここで待っていてくださいと言うと、駆け足で
「
倉へ飛び込んで早々にそう言葉をかけると、
「お客?そんな約束したかな」
「お返事なさらないからこういうことになるんですよ。すぐそこまでいらしていますから、急いで」
適当に放りだしてあった
うっかり片付け損ねた
「
いつの間にか
さらにふたりの公達はゆっくりと空の棚横を歩いてくる始末で、畳からおりてすぐに立ち止まったウツギのすぐ後ろまで来てしまった。もはや言い逃れようがない。
彼らはウツギの手にある碁盤を見て明らかに呆れた顔をして、小柄な方がハッと鼻で嗤い「暇そうで何よりです」と皮肉の籠もった挨拶をした。
このふたりを含み、普通の
「おや。久しぶりだね、
「文の存在はご存知だったのですね」
「いいや。この子がさっき教えてくれた。訪問理由までは聞いていないけど」
あっさりと白状する
「そこはお認めになるところではないでしょう」
「その嘘をおっしゃらないところも変わらずですなあ」
思わずとばかりに後ろから
まったく褒めていないのに、なぜか照れくさそうに
「し、
やにわに、頓狂な五人目の声が響き渡った。
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