出逢い 肆
「ご冗談ですよね、
先に疑問を口にしたのは
だが疑問符にまみれる少年に置き去りに、
「
「まあ、そうですが……。それでも、人間以外の
「あの、すみません」
耐えられず、少年は遮った。
「
しんと気不味い沈黙がおろされた。
記憶がないことを知らぬ
「お前……自分の主人のことも知らず、そんな大役を担っていたのか。不敬にもほどがあるぞ」
「と言われましても。自分は名すら覚えていないので……」
何ならば、自分が鬼人なる存在であることも、鬼人が何なのかも覚えていない。頬をかいてそう返す少年に、いっそう信じられない、と
「鬼人とは、お前のような角を持つ人形の
「獣、ですか」
「そうだ。お前のように毛深くなくて、角が二本なのは初めて見たが……」
多くの鬼人は全身を茶や黒の毛で覆われ、ひたいに大きな角が一本生えている。狐を連想させる耳をもち、光で瞳孔の変化する
その毛深い外見から人間より獣として扱われるのだ。
知恵があるぶん厄介なので、人里に降りた鬼人は即刻首をはねて駆除されるか、もしくは
「はあ。まるで別の生き物ですね……」
角を有し、瞳孔が変化する以外、ほとんどの特徴が一致していない。肌はつるつるで、目は赤色。牙もなければ尾もはえていない。
「そういう鬼人もいるということだろう」
「はあ」
何とも雑な結論だ。
すると横から
「まあ、君を雇っていた
「ええと……
死体で見つかったと言っていたので、あの浜辺で見た女人がその
「そうだよ。あの御方は神職のなかでも高位に就く
ここ、
それはこの
むろん、そのふたつの世界や神々を「通常であれば」目視することはできない。ゆえに人々は、その境い目を大きな湖や海の
「君のご主人はその
「
「そう。
他にも東の
「とにかくこれに着替えて。続きは茶でも飲みながら話そうか」
「はあ」
麻でできた
史紀たちと言えば、少年が着替えているあいだ何やら話し込んでいたらしい。こちらに目を向けることなくずっとひそひそと言葉を交わし、その間ずっと、随身の
こちらに気がついた
「おや、丈が合わなかったみたいだね。あつらえなおした方がいいかなこれは」
などと切り出した。
「服があるだけ助かりますので……大丈夫です」
「代金を気にしているのかい。気にすることはないよ。こちらが勝手に押し付けたのだしね」
「はあ」
「気になるなら、しばらく私のもとで働いてもらおうと思っているから、代金はその給金から天引きでも問題ないよ」
「はあ…………はあ!?」
「
「いや、ぜんぜん話が見えないです」
きっぱりと言い返すと、史紀は困ったなと眉を八の字にする。八の字にしたいのはこちらだ。そもそも
「
「器?」
「言ったろう。
つまり方法さえあれば、器を変えて「
とは言えそれらは迷信だと多くの人間は知っている。ゆえに「
「俺はあの
「そうだね。しかも、かなり信頼の寄せられた、ね」
「私は
「はあ」
何を言いたいのか、さっぱり伝わらない。
少年をかくまう気満々の主人に対し、随身はいまだに猛反対を続けているが、記憶も行く当てのない少年はこの何を考えているのかわからない男に頼るしかないのも事実。
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