欠陥デスゲーム


 五人の男女が集められた。


 密室。部屋の四隅には怪しげな噴射口があり、嫌な予感しかしなかった。


 周りを見れば見ず知らずの男女……年齢はみな二十代前半くらいだった。

 お互い、知り合いではないようだ……初対面である。


 すると、部屋に置かれてあった、たった一台のテレビが映った。

 ……映った? 映ってはいるが……。

 そういう演出なのかもしれないが、画面が明滅を繰り返し、映像が途切れ途切れで、モニターとして機能していなかった。


 白い仮面を被った黒服の男がちらちらと見えてはいるものの、明滅を繰り返す画面なのではっきりとは分からない。

 どうせ正体など分からないのだから、画面が映らなくとも問題はないのかもしれないが……。



『これからデスゲームを始める――貴様たちにはあるゲーム、……を、てもら――――』



 音も途切れ途切れだ。



『――――、に、……以内に――えを出さ、れ、ば――――部屋の、――みに、る――噴射口から――――スが流れ出され――――……は、……ぬだろう』



「え!? ちょっと待ってまったく聞こえないんだけど!?」



 デスゲームに巻き込まれて、そのルールがまったく聞こえないというのは致命的だ。

 断片を聞いていると『なにかをしなければ』――部屋の噴射口から『なにか』が漏れ――『死ぬ』のでは?

 聞き取れていないので違うのかもしれないが……、デスゲームと言っておきながら『デス』要素がないというのもおかしな話だ。


「もう一回言ってくれる!?」


『では、健闘を祈る――――』


「待ちなさいよ!!」


 部屋に残された五人の男女。

 ルールを聞き取れた者はひとりもいなかった……。



「……え? どうする? どうすればいいの……?」



 五人は途方に暮れた。


 その後、度々出てきてはヒントを教えてくれる黒服だったが……また聞こえない。


 音割れが激しく、ちゃんと伝わらない。ヒントの意味がなかった……。



 ――――開始から一日が経とうとしていた。

 床でぐったりとしている五人は、きぃ、と開いた扉を目だけを動かして見た。


 白い仮面の黒服。画面から出て、現場までやってきた……?


「なぜッ、貴様たちはゲームを真面目にやらないんだッッ!!」


「き、聞こえないって、言ってるじゃない……ッッ!」


「なに? …………まさかこっちの声もそっちに聞こえていなかったのか……?」


「こっち、も……? じゃあ、私たちの声も、そっちには聞こえて、ない……?」


「ああ、そうなるな……。お互いに声が聞こえていなかったとは……そりゃ成立するわけがないじゃないか……――ふふ、あっはっはっ。間抜けな話だなあ!!」


「わ、笑いごとじゃ、ない…………」


 じんわりと部屋を満たし始めていた毒ガスが、五人の男女の生命力を奪っていた。

 ゆっくりと、意識が奪われていった五人が、やがてぐったりと息を引き取っていく……。


「む。ガスが漏れている……? 栓を閉めていたはずだが…………。まったく、電波だけじゃなく色々と欠陥ばかりだな、この建物は……。デスゲームには向いていない」


 ゲームマスターが部屋を出ようと扉に手をかけた時、違和感を感じた……開かない。


 勝手に鍵がかかったのか? なら内側から鍵を――と思ったが、当然デスゲームの舞台とするのだから潰している。内側から鍵は開けられない……つまり。


 閉じ込められた。


 毒ガスが徐々に充満していく欠陥住宅に。



「……まずい。まずいぞ私まで巻き込まれ――――」



 焦って、すぅ、と吸い込んでしまったが最後、黒服は毒によって倒れてしまった。



 デスゲームの生還者は0。


 参加者は五名だが、死亡数は六名だった。




 …了

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過不足デスゲーム(あーんど)クイズ! 渡貫とゐち @josho

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