第六話『チャイカとユグドラー』

 獅子王ライアンの、ユグドラー体制確立宣言より十年後。


 完全にユグドラー中心の経済となったふろんてぃあ島。たぬきちユグドラー発行所は大いに成功し、莫大な富を築いていた。発行所は他のどうぶつを雇用して、毎日せっせと、古い劣化したユグドラーを回収しては、その裏で新しいユグドラーを市場に投入する準備をしている。その新しいユグドラーになれるのは、たぬきの縄張りだけに生えると思われていたゆぐどらーしるの木の葉のみ、だったのだが……


 ある時、絶海の孤島の外から、『ひこうどうぶつ』がやってきた。


〈チャイカ! チャイカ!〉


 『チャイカ』という妙な鳴き声を発する、白色と灰色をしたひこうどうぶつ。

 どうぶつたちは、初めて見るひこうどうぶつを、仲間には迎え入れず、『侵略者』として、滅多うちにした。


 しかし、ある時、ひこうどうぶつの有用性に気づいた。


 倒したそのひこうどうぶつを……

 食べると、美味いのである。


 おまけに繁殖力も高く、畜産向き。


 その大変美味なひこうどうぶつは、特徴的な鳴き声からとって『チャイカ』と名付けられた。

 どうぶつたちは、皆こぞって、チャイカを捕まえては、飼育し、繁殖させた。

 繁殖させる時に「たまご」がとれたが、これまた美味であり、新たなどうぶつたちにとっての栄養源になった。


 チャイカはだんだんと数を増やしていき、野生のチャイカや飼育小屋から逃げ出したチャイカが、食べ物となる木の実を求めて、島中の木々を行き来するようになった。


 そして、チャイカが木の実をついばむ木として、ゆぐどらーしるの木も例外ではなく、こんな光景が見られるようになった。


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 とある秋のある日。

 たぬきの縄張りの中。

 相変わらず青々とした葉をつけるゆぐどらーしるの木の、こずえの端にとまる、一匹の灰色のチャイカ。

 チャイカは、腹を空かせているようで、目の前に成った、赤い木の実をつつき始める。

 ブチュッ、と木の実はえぐれ、遥か下の地面に、赤い汁がポタポタと滴る。

 赤い汁は、チャイカの黄色いくちばしを、赤く染めている。

〈チャイカ! チャイカ!〉

 と、いつもより低い声で鳴くチャイカ。

 その姿は、この島には存在しない、屍肉食しにくしょくのどうぶつを思わせる。

 チャイカは、木の実をついばんでお腹が膨れたのか、また別の木を目指して飛び立つ。

 今度は、チャイカはたぬきの縄張りの外の木にとまる。


 フンをした。


 土の上に、白く水っぽいフン。

 その中に、コロコロとした固形物が散見される。

 ゆぐどらーしるの木の実だ。

 食べたものは、あまり消化されていないみたいだ。


 どうぶつの往来で踏みつけられたり、雨で地面がぬかるんだりして、チャイカがもたらした木の実が地中に埋まる。


 ほどなくして……

 

 そこから新たなゆぐどらーしるの木が生えた。


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 チャイカによるゆぐどらーしるの木の流出。

 それが、早くからチャイカに目をつけその『お肉』と『たまご』のビジネスで儲けていた実業家、虎の寅治郎とらじろうの敷地でも起こった。


 寅治郎はある日、自身の邸宅の庭に、見たこともない幼木ようぼくを発見した。

「おいおい、この幼木……たぬきのところの、ゆぐどらーしるの木じゃないか? これってもしや、育てて葉をたくさん回収すれば……」

 彼は、目を輝かせて、ひとり呟いた。


 そう。


 チャイカの存在は、回り回って、偽ユグドラーの生産を可能にしたのだ。

 そしてもちろんチャイカが、ユグドラーを牛耳るたぬきたちにとって、目の仇のような存在になったのは、言うまでもなかった。


〈第七話『ふろんてぃあ島の大恐慌』に続く〉

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