第五話『揺らぐお米とユグドラー台頭』 

 ユグドラー大作戦開始から数日後。ふろんてぃあ島の経済は、たぬきちたちの思惑通りになり始めた。たぬきちユグドラー発行所には、しなものとユグドラーの交換を目的に客が殺到し、たくさんのしなものがもたらされた。食料、衣類、家具をはじめ、荷車や小舟まである。


「へっへっへっ、間抜けなやつらめ。他のどうぶつたち、まんまとユグドラー取引を見て、真似し始めたぞ。お米屋さん以外のお店も、ユグドラーを導入し始めているようだし。そしてすでに発行所には、こんなにたくさんのしなものが! 水田領主でさえも、これを見てたまげるだろうな! あっはっはっは!」

 と、調子に乗り、大喜びのたぬきち。


「あなたやっぱり天才だわ! これで、ユグドラーを無限に作って、無限にものを手に入れ放題ね!」

 と、たぬこは早くもユグドラーの虜になろうとしている。


 しかし……

「それは違うぜ、たぬこ。むやみやたらにユグドラーを作って島中にばら撒いちゃあいけない」

 と、たぬきちはたぬこを嗜め、ユグドラーの本質について語り始める。

「どうして?」

「あんまりユグドラーが増えすぎて、みんなの手元にユグドラーが余るようになっちまったら、せっかくものをユグドラーに変えたのに、持っててもただの葉っぱじゃないか、というクレームになりかねないだろう?」

「確かに、そうね」

「だから、大事なのは、『バランス』なのさ」

「バランス……つまりどういうことかしら?」

「ユグドラーは葉っぱだ。だから当然、使われるうちに、ボロボロになっていく」

「うんうん、それでそれで?」

「そこでだ。定期的に劣化したユグドラーを回収して、一旦島の中のユグドラーの総量を減らす。そうして他のどうぶつどもが、『物が欲しいのにユグドラーが足りない』と感じ始めた頃に、たぬきちユグドラー発行所まで、ものを持って来てもらって、新品のユグドラーと交換する。そうやってユグドラーの流れを俺たちがコントロールするんだ」

「なんだか俄然うまくいきそうな気がしてきたわね! あなたって本当に天才!」

「へへへ、これくらいちょろいってもんよ」

 たぬきちの勢いは、止まるところを知らなかった。


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 そう長くない月日が経った。

 そしてついに、たぬきちユグドラー発行所の主導で、島全土に『ユグドラー体制』が確立された。


 ふろんてぃあ島の支配者である、獅子王ライアンも、納税にはお米でなく、ユグドラーを使うように、との勅命を出した。

「ここに、『ユグドラー体制』の確立を宣言する! 王宮は財政責任者にたぬきち氏をつけ、納税には、従来の『お米』ではなく、『ユグドラー』のみを用いることが決定した! 島民は皆、これに従うように!」

 獅子王ライアンは、高らかにそうおおせなさった。


 ユグドラー体制、それが何を意味するのか。


 そう。


 いろんなものを、『ユグドラー』に交換することができるようになったので、もはや『お米』一強の時代ではなったのだ。


 よって、たぬきちユグドラー発行所の繁栄の裏で、コメーン川の水田領主の蛙たちは、かつてのようにお米利権によるボロ儲けが、できなくなっていった。


〈第六話『チャイカとユグドラー』に続く〉

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