第四話『ユグドラー大作戦@お米屋さん』

 始まったユグドラー大作戦。たぬきちは準備段階として、ゆぐどらーしるの木の周りでユグドラーをたくさん集めて、『たぬきちユグドラー発行所』を設立した。そして仲間のたぬきや、たぬきと仲の良い他のどうぶつたちをゆぐどらー汁の賄賂で懐柔してサクラとし、ユグドラーとものを交換する習慣を作るべく小芝居を始めた。


 ある朝、お米屋さん『くま太郎商店』のバックヤードにて。


「ほいじゃ、くま太郎さん、たぬすけ、たぬたぬ、台本通りによろしく。これはお礼の品のゆぐどらー汁、とっておいてくれ」

 と、たぬきちは、琥珀色の美しい液体の入った小瓶を三匹に渡す。


「「やったぁ!」」

 と、大喜びのたぬすけとたぬたぬ。

 

「たぬきちさん、あんたも、悪よのぉ。あ、私、この台詞をずっと言ってみたくて……夢だったんです!」

 と、くま太郎商店店主のくま太郎も、ノリノリである。


「ふふふ、夢はこんなもんじゃあありませんよ。じゃ、いきましょうか」

 と、たぬきちがニヤッと微笑むと、一行は各自の持ち場にスタンバイした。


 くま太郎商店が開店。

 それと同時に、お米を求めてどうぶつたちが入店する。


 店内に、やけに大きく目立つ声が響き始める。


「お米を一升くださいな!」

 と、たぬたぬ。

 隣に、たぬすけもついている。


「はいよ、十ね!」

 くま太郎は、聞き慣れない『ユグドラー』という単語をわざと強調してそう言った。


 たぬたぬは、懐から、青々とした葉の束を取り出すと……

「はい、これでお願い!」

 と言って、それを堂々とレジのカウンターに置いた。

  

 くま太郎は、それをさも当然のように受け取り、葉を一枚ずつ数え出し……

「いち、にい、さん、よん、ごお、ろく、なな、はち、ここのつ、とお。はい確かに十ユグドラーちょうどお預かり。毎度あり!」

 そう言って、小さな箱の中に、葉をしまった。


「いやぁ、ユグドラーはすごいや! これなら、かさばらなくて持ち運びに便利だこと!」

 と、たぬたぬ。


「そうだそうだ! これからはユグドラーの時代だな!」

 そう言ってたぬたぬに加勢をするたぬすけ。


 その光景を、他のどうぶつたちがそれを見て、ざわついていた。

「ユグドラー、なにそれ? ただの葉っぱと、大事なお米を交換しちゃった……」

 と、兎。

「新手の詐欺か?」

 と、狐。

「でもあれ、持ち運びに便利そうだとは思わない?」

 と、鼠。

「価値はどうやって担保しているんだ?」

 とチンパンジー。


 そして、待っていましたと言わんばかりに、疑問まみれのどうぶつたちの間に、たぬきちとたぬこが割り入る。


「おほんっ!」

 と、たぬきちは咳払いし、注目を集め……

「君たち、ユグドラーを知らないのかねっ?」

 と、切り出した。


 すると、何も知らない動物たちは、皆口を揃えて……

「「「「ゆぐどらー????」」」」

 と疑問を呈した。


 たぬきちとたぬこは、協力して解説し始める。

「『ユグドラー』、それはぶつぶつこうかんに代わる、便利な取引システムさっ」

 たぬきちは、胸を張って、かしこぶってそう言った。


「そうなの。いちユグドラーで、お米一合と交換ができるの。だから一升のお米が欲しいなら十ユグドラーよっ」

 たぬこも、たぬきちに仕込まれたのか、説明が単純明快である。


「ユグドラーはただの木の葉ではない。神聖なるゆぐどらーしるの木の上質な葉っぱのみを使用しているからなっ」


「それに、交換対象はお米だけじゃないのよ。他のものとも交換ができるの。お水やら、家具やら、服やら、お薬なんかもいけるわよ。そうですよねっ、くま太郎さんっ?」


「はい、左様で」

 と、買収されているくま太郎は二つ返事である。


「へぇ、それ、すごい便利だな!」

 と、感心する兎。

「うーん……面白い考えだが、俺は実体のないものには興味がないんだよなぁ……」

 と、やや否定的な狐。

「便利便利! どうやったらその便利なユグドラーを手に入れられるの?」

 と、興味津々な鼠。

「なるほど、ご神木の後ろ盾と来たか! それなら納得、俺も使いたいぜ!」

 と、信心深いチンパンジー。

 

 ユグドラーは、居合わせた客に、概ね好意的に受け取られた。


 たぬきちは手応えを感じ、さらに客を引き込もうとする。

「ぜひ利用したい、という方いらっしゃいましたら、ゆぐどらーの木のそばにあります『たぬきちユグドラー発行所』までお越しいただければ、ユグドラーをお渡ししますよ。その際、交換のしなものを持ってくるのをお忘れなきよう! こちらの対応表の通りのユグドラーと交換させていただきます」


「どうしようか、迷うなぁ……」

 と、悩む兎。

 狐はどこかに去ってしまった。

「今家に何か交換できそうなものはあったかしら?」

 と、鼠。

「行きたいけど、みんなが行くなら、かな。一人は嫌だし」

 と、付和雷同なチンパンジー。


 実際に使うかどうかとという問題になると、どうぶつたちは、慎重姿勢をとった。


 これを受け、たぬきち、たぬこの二匹は、こそこそ話で作戦会議を始める。

「くっ、あともうひと押し、というところか。この後どう出るべきか……」

 たぬきちは、考えあぐねる。

「私に任せて?」

 と、たぬこ。秘策があるようだ。

「本当か!? それはとっておきの作戦なんだろうな?」

「ま、見ててよ」


 そして、たぬこがこう付け加えた。

「本日『たぬきちユグドラー発行所』にお越しの方には、特別出血大サービスで、対応表に記載の交換枚数の一・一倍のユグドラーと交換いたします!」


 するとどうぶつたちの反応は……

「へぇ! それなら行こうかな!」

 と、兎。

「一割り増し? やるじゃないか。まぁ、今は様子見ってところかな」

 と、狐がどこからともなく戻ってきて呟く。

「あ、家にネバネバ粘着装置があるんだったわ! それを持って行こうっと」

 と、鼠。

「そうときたら! ええっとうちに余っているのは、洗濯板、食料保存庫、紙芝居舞台……」

 と、猿。

 たぬこのアイデアは、効果覿面てきめんだった。


 歓喜のたぬきカップル。

「でかしたたぬこ、名案だった!」

「でしょう? 私もやる時はやるのよっ。じゃあほら、改めて呼びかけないと」

「ああ、そうだったな……おほんっ! では早速、この後皆さまのご自宅に余っているしなものを持って、たぬきちユグドラー発行所所まで、お越しくださいませ。従業員一同、心より、お待ちしております」


〈第五話『揺らぐお米とユグドラー台頭』に続く〉

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