第三話『ゆぐどらーしるの木の葉』

——大繁盛した『ゆぐどらー汁』事業。

 

 飽くなき儲けへの執着を持つたぬきたちは、動物たちのゆぐどらーしるへの『崇拝』を何かに利用できないかと考えていた。


 ある日たぬきちは、ガールフレンドのたぬこと一緒に、ゆぐどらーしるの木のそばに座り、その太く逞しい幹に背を預けていた。


 たぬきちは陶器の器にゆぐどらー汁を塗りながら……

「何かもう儲けできるようなアイデアが、突然降ってこないかなぁ」

 と、ボソリ。


 たぬこは、そんな怠けた考えのたぬきちに、こう釘を刺す。

「アイデアなんて、急に降ってくるものでもないでしょう?」

 

「それはどうだかねぇ」

 と、たぬきちは根拠のない自信を持っている。


 すると、天から葉っぱがひらひらと舞い降り、たぬきちの頭の上に乗った。


 たぬきちは、葉っぱを手に取り、じっと見つめ……

「これだ、これじゃないか! 神聖なゆぐどらーしるの木の葉を、『ぶつぶつこうかん』の媒介物にしたら、便利じゃないのか??」

 と言って、勢いよく立ち上がる。


「どういうこと?」

 と、ピンときていないたぬこ。


 ニヤつくたぬきちは、こうのたまう。

「ぶつぶつこうかんは、実物が手元にないと、交換できない。これは不便だとずっと思っていたんだ。遠出した時に、お店で『あっ、これ欲しいな』と思っても、必ずしもその時にぶつぶつこうかんに使える何かしらを持っているとは、限らないだろう?」


「あー、確かに。私もたまに、それで困った経験があるわ」

 と、頷くたぬこ。


「そこでだ。持ち運びやすくて、かつ、みんなが価値を見出せる、のパイプ役みたいな存在があれば、とっても便利だとは思わないか?」

 たぬきちは、ぶつぶつこうかん用の葉っぱの有用性を説いた。


「うんうん! 確かに! でも、葉っぱなんかで大丈夫かしら?」

 と、たぬこは少し懸念点があるようだ。


 が、たぬきちはすかさず持論の妥当性の根拠を提示する。

「間違いなく、大丈夫だ。考えてもみろよ、ゆぐどらーしるの木は皆が崇める神聖な存在だろう? その葉っぱだったら、皆疑いもなく価値あるものとして、使ってくれるに決まってる。ゆぐどらーしるの木は、ただのご神木じゃない、金のなる木だったのさ!」

 たぬきちは、その短い両手をせいいっぱい広げて、ゆぐどらーしるの木を仰ぎ見ている。


 たぬこは、たぬきちの素晴らしいアイデアに、思わず彼に飛びつき……

「たぬきち、あなた天才だわ!」

 と、褒め称えた。


「早速取り掛かろう。まずは、島のどうぶつたちの生命線ともいうべき『お米』とゆぐどらーしるの葉っぱを結びつける必要がある」


「ほぉほぉ、じゃあ、コメーン川三角地帯の水田領主さんとでも協力する?」


「いや、あの蛙どもは一旦気にしない。そっちよりも、まずはお米をどうぶつたちに『売っている』やつらにゆぐどらーしるの葉っぱを布教する」


「そっか! お米はみんな絶対に必要だから、お米をゆぐどらーしるの木の葉で買うところをみんなに見せつければ……」


「ふふふ、そういうことよ」


「ああ、成功の香りがするわ。ところでなんだけど……」

 たぬこは徐に、足元に落ちているゆぐどらーしるの木の葉を一枚、拾い上げて……

「この葉っぱに何か呼び名はつけないの?」

 と、尋ねる。


「呼び名かぁ、確かにそれは、あったほうが親しみやすいな」


「あっ! こんなのはどう? ゆぐどらーしるの木の葉、名付けて……」

 たぬこは、葉を持つ手を天に掲げ……

「『ユグドラー』!」

 と叫んだ。


「たぬこ、とてもいいセンスだ! 採用しよう!」

 と、たぬきちもその呼び名を大いに気に入った。


 こうして、たぬきちたちのユグドラー大作戦が始まった。


〈第四話『ユグドラー大作戦@お米屋さん』に続く〉

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