第二話『島の神木ゆぐどらーしる』
——ふろんてぃあ島の都市部に、たぬきという種族がいた。
ずんぐりむっくり、まんまるしっぽに、ぽんぽこ腹を抱える、大きな図体。
たぬきは、非常に排他的な種族で、広い土地の周りに高い石垣を築いて、その中を縄張りとしている。
彼らは、自らが縄張りの外に出向くことはあっても、逆に他のどうぶつがたぬきの縄張りに入ることは、一切許さない。
また、たぬきは知能は高かったが、面倒なことは大嫌い。
毎日、どうやって楽して稼ごうか、と考えるような、ちょっぴりずるいどうぶつである。
そんなわけで、たぬきは他のどうぶつに比べて早くから、稲作などの肉体労働を伴う仕事に嫌気がさし、何か楽に稼げる方法はないか考えを巡らせていた。
ある日、たぬきのたぬきちが、縄張りの中に立つ、島で唯一の巨大な神木『ゆぐどらーしるの木』の周りを散歩していた。
どうせ、何か儲け話はないだろうか、とでも考えを巡らせているのだろう。
突如、たぬきちは立ち止まり、いつもはそれほど気にかけない、ゆぐどらーしるの木を、ジロジロ見回し始めた。
すると木の表面の所々に、綺麗な琥珀色の塊があるのに気づいた。
「おおっ、よく見るとこの樹液、綺麗だよなぁ」
そう、たぬきちの嗅覚が、ゆぐどらーしるの樹液に惹きつけられ……
「これだ、これは金になるぞ!」
そう言ってたぬきちは、屋敷に何かを取りに戻った。
たぬきちはナイフを持って帰ってきた。
ゆぐどらーしるの木に近寄り、ナイフを逆手持ちにすると……ぐさっと刺した。
そしてそのまま、ゆっくりと、木の表皮を割く。
ドロっと溢れる、琥珀色の液体。
たぬきちは、宝石でも見つめるかのように、恍惚として目を輝かせて……
「やはり綺麗だ。これを、『ゆぐどらー汁』名付けよう! この汁を器の類に塗れば、それは美しい艶を放つ芸術品になること間違いなしだな。それを金持ちに売りつければ……くくくっ」
と言って、ゆぐどらー汁を壺の中に回収し始めた。
こうして、たぬきによる、島に唯一の神木の樹皮を傷つけて樹液を採取して売ることで独占的に利益を上げる『ゆぐどらー汁』ビジネスが始まったのだが……
これが、大成功、飛ぶように売れた。
もちろん、狡猾なたぬきたちは、ゆぐどらー汁を大量生産せずに、生産量を絞って、価値を釣り上げた。
水田領主などの裕福なものたちは、富の象徴としてこれを欲し、庶民も、ゆぐどらー汁を塗った物品に憧れを持った。
さらに、ゆぐどらー汁の存在は、どうぶつたちのゆぐどらーしるへの崇拝を、よりいっそう強くした。
〈第三話『ゆぐどらーしるの木の葉』に続く〉
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