手を出して自らふれし朝顔市
手を出して自らふれし
季語は、朝顔市。東京都、入谷の
「
朝早くから、電車に乗って二人でやって来た、有名な朝顔市。
早めに動いたから、まだ朝顔の鉢を選ぶことができた。
彼女が好んだのは、既に咲いている鉢ではなくて、蕾が多いもの。
帰りも電車に乗るので、持ち運びやすそうなものから、さらに、蕾の多いものを選んでいた。
「はい、大事に育ててね」
「ありがとうございます!」
「いいのが買えてよかったね」
僕は、彼女から朝顔の鉢を受け取り、抱える。
彼女が持つと、大きく見えた鉢。
僕が抱えると、多分、小さく見える。
「うん。蕾がたくさん。朝顔が咲くまで、ずっと見ていられるから、楽しみだよ」
「楽しみだね」
朝顔を楽しむ間、君が笑顔でいられることも嬉しい。
鉢を落とさないように、しっかりと抱えて。
「……ええと、お願いします」
片手には、朝顔の鉢。
そして、空いた手で。
「こちらこそ、お願いします。離さないでね」
もちろん、離さないよ。
だから、君の手を、握らせて。
※ふれし、には、触れ、と、振れ、を掛けております。
朝顔市は、夏の季語。朝顔は、確認しましたら、秋の季語でした。
外では、常に、いや、できれば……。それでも、自分から、手をつなぎたい。
まだ、触れた手は震えてしまいます。
でも、彼女も、朝顔の鉢も、きちんと守ります。
朝顔と一緒に電車に乗って、地元に戻っても。
つないだ手は、そのままなのです。
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