手を出して自らふれし朝顔市

手を出して自らふれし朝顔市あさがおいち



季語は、朝顔市。東京都、入谷の鬼子母神きしぼじん境内で七月六日から八日まで行われる鉢植えの朝顔の市のことです。



つぼみの多い鉢がいいです」 

朝早くから、電車に乗って二人でやって来た、有名な朝顔市。

早めに動いたから、まだ朝顔の鉢を選ぶことができた。


彼女が好んだのは、既に咲いている鉢ではなくて、蕾が多いもの。

帰りも電車に乗るので、持ち運びやすそうなものから、さらに、蕾の多いものを選んでいた。


「はい、大事に育ててね」

「ありがとうございます!」


「いいのが買えてよかったね」

僕は、彼女から朝顔の鉢を受け取り、抱える。

彼女が持つと、大きく見えた鉢。

僕が抱えると、多分、小さく見える。


「うん。蕾がたくさん。朝顔が咲くまで、ずっと見ていられるから、楽しみだよ」

「楽しみだね」

朝顔を楽しむ間、君が笑顔でいられることも嬉しい。


鉢を落とさないように、しっかりと抱えて。


「……ええと、お願いします」

片手には、朝顔の鉢。

そして、空いた手で。


「こちらこそ、お願いします。離さないでね」

もちろん、離さないよ。


だから、君の手を、握らせて。 



※ふれし、には、触れ、と、振れ、を掛けております。


朝顔市は、夏の季語。朝顔は、確認しましたら、秋の季語でした。


外では、常に、いや、できれば……。それでも、自分から、手をつなぎたい。


まだ、触れた手は震えてしまいます。

でも、彼女も、朝顔の鉢も、きちんと守ります。


朝顔と一緒に電車に乗って、地元に戻っても。


つないだ手は、そのままなのです。



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