相傘を釣鐘草にならいけり
季語は、釣鐘草。
相傘は、
「雨だ。傘持ってるから、使って」
彼は、私に折り畳み傘を手渡そうとする。
君が使うのが当たり前だよ、みたいに。
そうだね、私は、今日は傘を持ってない。
けど。
「一緒に入らせて」
これくらいは、いいと思う。
「大丈夫、僕、頑丈だから、雨くらい」
一緒に入りたくないとか、そういうんじゃなくて。
きっと、二人で小さな折り畳み傘をさしたら、私の肩が濡れちゃうとか。
そんなことを、考えてくれているんだと思う。
だったら。
「一緒に入ろう? ほら、あれ見て」
彼に見せたのは、蛍袋。
濡れたくないのかどうなのかは、分からないけれど。
てんとう虫と、それから蟻。
虫たちが、蛍袋に入り込んでいた。
「いや、あれは雨宿りかも知れないし」
「じゃあ、このままだと私も濡れちゃうから、ね」
傘を開いて、手をのばす。
でも、背の高い彼に傘を差し掛けるのは、けっこうたいへん。
「……貸して」
そうしていたら、傘を受け取って、彼が私に差し掛けてくれた。
「できるだけ、中に入って」
彼がそう言って、私の方に傘を寄せる。
ほら、やっぱり。
「じゃあ、こうしたら」
だから、私が。
彼のそばに、寄る。
彼の肩が、できるだけ、雨に濡れないように。
「……うん」
よかった、納得してくれた。
ほんとうは、腕を組んだりしたいけど。
そうしたら、きっと。
恥ずかしがった彼に、逃げられてしまうから。
今は、なるべく傘の近くにいよう。
蛍袋に入る、虫たちみたいに。
※ならう、には、倣う、と習う、を掛けております。
たまたま傘を忘れた彼女。
梅雨の時期だから、彼女と会うときは、必ず傘を持つようにしている彼。
彼の想像の中には、相合い傘はまだありませんでした。
昔の子どもが袋状の花の中に蛍を入れていたのでこの名前が付いたという説もある蛍袋。
そして、雨を避けたいのかも知れない虫たち。
これらのおかげで、今回は無事、相合い傘になりました。
恥ずかしそうな彼の横顔。
彼女からは、とてもよく見えています。
腕を組む、はまだ時期尚早のようです。
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