「この!平民!アリストは!罪人である!罪人は!悪であり!その首と体がつながっているなんて言語道断!」




朝起きて俺は困惑した。


なぜならメイド達が起きて来た俺を見て『だれ!?』と言い出したからだ。


全くもって意味がわからない。



寝て起きただけで幼い頃から支えてくれているメイド達が皆俺のことを忘れてしまっていたのだから。


いや、違うな。


忘れてるというのは違うかもしれない、俺が誰だかわかっていない様子だということだ。



はたきや箒を持ち、俺にジリジリと近づいてくるメイドを避けつつ制服と鞄を取り部屋から走り出た俺は食事を取るために食堂へ向かった。


食堂でも俺と認識されなかったらどうしようかと考えもしたが、行ってから考えることにした。



幸い食堂では何事もなく食事ができた俺は、食後のコーヒーを飲みつつこれからのことを考える。


俺がコーヒーを片手に静かにしているというのに、食堂の奥にあるキッチンからは皿の割れる音が何度も繰り返され『ヒャハハハ!一枚二枚…コップイッチョ!』という狂った歌が定期的に聞こえてくる。


悲しいことに俺はおかしな出来事に対し、もうあまり深く考えないようになっていた。


なんでだとかどうしてだとか考えたところで、何も現状が変わらないことを知ってしまったからかもしれない。


『なんだか今日は朝から散々な目に合い続けているな』と考えた後、深くため息をついて席を立ち食堂を後にする俺の背中に向かって誰かが『ため息の一枚!』と言いながら皿を投げてきたが、それよりも早く食堂のドアを閉めたので当たることはなかった。


意味のわからないことに疲れた俺は怒る事をめんどくさいと思うようになっていた。


…以前の俺とは大違いだな。


これからどうするかと考えた俺は、あのメイド達以外は俺のことを俺だと認識しているとだろうとそのまま登校することにした。


また『登校する時におかしな事が起こるのだろうな』と思ったが、何事も起きないまま俺は学園へと入ることができた。


また『教室へ向かうけど廊下が延々と続くとか変な事が起きるのだろう?』と思ったが、何事もなく教室の前までたどり着く事ができた。


なんだか拍子抜けだなと思ってしまうほどには、この状況に慣れつつある俺。


『まぁ、何事もなく入る事ができるならそれでいい』と思いながら自分の教室へと入るためにその扉に手をかけ開くと、そこではとんでもない光景が広がっていた。



なんと、教室の扉を開けるとそこはどこかの街中だったのだ。


俺はその光景に唖然としたがすぐに、中央の広間に人だかりが出来ていることに気付く。


何が行われているのかと思い見にいくとまるで処刑が今から行われるかのように、1人の男性が断頭台に嵌められていたのだ。全くもって意味がわからない。


よく見ればその男性は俺に良く似た容姿をしていた。


生き別れの双子の兄弟だと言われれば納得する程俺に似ている容姿の男はその目を血走らせながら仕切りに『俺にこんな事をしてタダじゃおかない』『○してやる』『裏切り者め』と延々誰かに対して恨み言を言っていた。その口から紡がれる言葉はまるで…呪詛のようだ。


この男の事も気になるのだが、それよりも俺が気になったのはその左右に立っているクラスメイト2人だ。


その2人が大きな剣を片手に、男の事などまるで見えていないかのように延々とおかしなことを口走り続けているのだ。


そしてその周りを囲んでいるのもクラスメイトであり、左右に立っている2人がおかしなことを言う度、アイドルのコンサート中に発するような黄色い声援を送っていて、それに呼応するかのようにまた左右の2人が声を張り上げるというおかしな場面に出くわしたのだ。



俺に似た知らない誰かが断頭台に。そしてその左右で意味のわからないことを喚くクラスメイト二人。それを聞いて黄色い声援を送るクラスメイト達。…全く意味がわからない。




「静粛に!皆!これより!平民アリストの公開処刑を始める!」


「「「キャァー」」」


「この!平民!アリストは!とんでもない悪人である!よってその首を!野に晒す!晒し首だ!」


「「「キャァー」」」


「この!平民!アリストは!罪人である!罪人は!悪であり!その首と体がつながっているなんて言語道断!死刑だ!」


「「「キャァー」」」


「首と体がつながっているなんて!悪だ!悪がここにいる!皆!こいつは首だ!首!首!首!首!首だ!」


「「「キャァー」」」






俺がクラスメイト達のやりとりに耳を傾けていると、なんと俺によく似たこの男は俺と間違われて断頭台に上がっている事がわかった。


…俺と同名だと言う可能性もあるが、多分この場合のアリストは俺のことだろうとなぜか俺は確信していた。




「首があるから!いけないんだ!罪人もそうでない人も!皆首を!首を落とせー!」


「「「キャァー」」」


「罪人アリスト!貴様の罪状は!首が繋がっているからである!ウサミの首を落としておきながら!貴様には首がついている!」


「「「そうだそうだ」」」


「またそうやって!貴様は!自分は第三者のような顔をして!体と首をつないでいる!よって死罪!」


「「「そうだそうだ」」」


「貴様は!いつもだ!思いだせ!貴様は!首があるからと!無罪のウサミを!首にかけた!海馬を抉り出せ!」


「「「そうだそうだ!」」」




「そうだ俺は、あの時ウサミを…」




俺がそう呟くと後ろから『おはよう!アリスト!』と明るい声がした。




「ん、おはようウサミ。」


「アリストってばドア開けてずっと立ち竦んでるんだもん、私いつまでも教室に入る事ができなくて困っちゃったよー」


「あ、あぁ。すまない。」


「いいよいいよ!アリストは忙しいんだもん、そんな時もあるよね!」




…俺は、今一瞬何か大切なことを思い出したような気がしたが…?まぁいい。



俺は椅子へと座りながら『こんなおかしな事は早く終わってくれないかな』と、深く思った。



その後は何事もなく今日の授業は終わり、俺は寮へと帰ろうとしたのだが…なぜか椅子から立ち上がる事ができなかった。


意味もわからず左右を見回したりする俺の耳に聞こえて来たのは、誰かわからない女子生徒達の話し声だった。




「ねぇねぇ知ってる?ウサミの事」


「知ってる知ってる、高位貴族の子息ばかりと…ってる人だよね」


「そうそう、高位貴族ばっかり狙って…してるなんて卑しい女よね」


「嫌だ嫌だ。…してるとこ…と…に見られたからって…しちゃったんだって!」


「えええ!…してるとこ…からって…とか…。……。」


「…。」




俺はその二人の話し声を聞きながら気付けばそのまま机に突っ伏して寝てしまっていた。











後に俺は思うことになる。


『あのまま不思議の国にいたかったのに』と。

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