社畜女子は星座占いがお嫌い

未来屋 環

ついてない女のついてない一日。

 星座占いなんて、この世からなくなってしまえばいいのに。

 そう思っているのは、きっと私だけじゃないはずだ。



「今日の射手座の運勢は11位です!」


 12位には対処法がアドバイスされるが、それもない11位は実質最下位だと思う。

 ラッキーカラーは紫。残念ながら持ち合わせのない私は、普段通り毒にも薬にもならないアースカラーを身に纏い、マンションを出た。


 名ばかり管理職に昇進したところで、人的リソースが増えないことには職場が回らない。結局担当の時と変わらぬ仕事にプラスアルファが乗っかるだけだ。

 昨日承認をもらったはずの資料が上司の気まぐれでゾンビのようによみがえる。Z世代の後輩が送ったメールが炎上してCCメールが増えていく。前任者が残したデータはもはやどれが最終版なのかもわからない。


 気付けばトイレに行ったのは朝10時。昼休みはとうの昔に過ぎ、机に張り付いたまま定時を迎えた。

 私の膀胱にはゆとりがあるのか。日中の冷や汗と苛立ちにより立ち昇った水蒸気で水分が消費されたのか。メイク直しという名の儀式はどこにいったのか。奮発して買ったデパコスのリップはいつ出番がくるのか。

 教えてほしいことは積み重なる一方で、誰も答えてはくれない。



 ――私は決意して、オフィスを出た。

 自分を守れるのは自分だけだ。

 これ以上今日の私を可哀相かわいそうな存在になんてしたくない。



 駅前のチェーン店に滑り込み、生ビールと餃子を注文した。運ばれてきたジョッキを煽って一息。喉を走っていく苦みがたまらない。餃子にかぶりつくと、肉汁が口の中に溢れた。

 いつだろう、ごはんを食べなければ元気が出ないなんて、当たり前のことに気付いたのは。

 空腹でいてもどんどん暗く卑屈になっていくだけだ。そんな追い詰められていく自分に酔っていたのだと、今ならわかる。

 食事をすることは生きることだと思い出せただけでも、私は良い歳の取り方をしている。


 ケータイを見ると、後輩から『先輩、あざす!』とメッセージが来ていた。どうやら問題は解決したようだ。

 それにしても「あざす」って。私はあんたの友達か。

 洩れ出た笑いと共に、ふっと肩の力が抜けたような気がした。

 その勢いで店員さんを呼び止める。


「すみません、ネギラーメンください。大盛りで」


 11位を生き抜いたんだから、ご褒美くらいあったっていいでしょう?

 大丈夫、明日の私が頑張ってくれるから。



 今日の私、おつかれさまでした。明日の私、期待しているよ。



(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

社畜女子は星座占いがお嫌い 未来屋 環 @tmk-mikuriya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ