体験入部

 朝の6時、目覚ましが大きな声で日向子を呼び起こした。

 日向子はうるさいなと思いながら、目覚ましを止めて二度寝をしてしまう。

 目覚ましをセットしておいてもこのような結果では意味がないと日向子自身わかっているが、どうしても睡魔には勝てないのだ。



 5分後にまた目覚ましが鳴った。

 2回目ということもあってか、日向子は体を起こし目をこすりながら大きなあくびをしていた。

 日向子がゆっくりとカーテンを開けると少しずつ太陽の光が入り、部屋がだんだんと明るくなった。


 ベットから出ると軽く背伸びをし、洗面台に向って行った。

 洗面台にて歯磨きや顔を洗い終えると、制服に着替え学校に持っていくものの確認をはじめた。

 今日は授業などはないが、部活動見学(体験)があるため案内書類や提出物、メモ用紙などを持っていく必要があるらしい。

 全ての準備が終わると日向子はリビングに移動した。



 「おはよう。お父さん、お母さん。今日の朝ご飯は何?」

 「今日の朝ご飯は、ご飯とベーコンエッグよ。学校頑張ってきてね!」


 日向子的にはベーコンエッグと呼ぶより目玉焼きとベーコンと言った方がいい気がしていた。

 朝食を食べ終えた頃には、時計の針が7:20分を指していた。


 「学校まで自転車で10分くらいなのでそろそろ出発しなければいけない」と思っていた。

 バッグ、水筒、ヘルメット、自転車の鍵を持つと日向子は、

 

 「行ってきます」


 と大きな声で言った。

 自転車の荷台に乗せて荷綱でしっかり固定すると彼女は自転車を漕ぎ始めた。

 日向子は自転車に乗ることはできるが、運動神経があまり良くない。

 そのため、1km地点の当たりでもう息が上がっていた。

 学校まで残り2kmある。



 結局のところついた時刻が7:45となってしまった。

 周りには意外なことにまだ結構な人がいた。

 昇降口に着くと、扉の部分にクラス発表と太い字で書いてある紙が張り出されていた。

 自分の名前を探して見るとA組13番の場所に自分の名前が書かれていた。


 しかし、A組であることに不満を持つ日向子だった。

 理由は単純でというイメージがあるからである。


 卒業式などで入退場をする際、必ずと言っていいほど最初に出るクラスだからである。

 2年にクラス替えがあるとはいえ、やはりきついようだ。


 1年の教室がどこにあるかプリントで見てみたところ、4階にあるようだ。

 この学校は5階建てとなっており、5階が2年、3階が3年となっている。

 2階には実験室や家庭科室などの実技室が揃っている。



 教室に着く頃にはもうアイスみたいになっていた。

 教室には40席くらいあり来ている人は半分くらいだった。

 話をしている人たちが多かったが日向子はその和に入ろうとせず本を読み始めた。

 

 今日読んでいる本はダニエル・キイス作『アルジャーノンに花束を』だった。

 この本は主人公は大人にして幼児並みの知識しかなかったが、頭を良くしてくれるという実験に参加し天才に豹変する。

 そうして、人の感情について知る小説である。

 この小説は少し特殊であり、最初は平仮名や誤字ばっかである。

 しかし時間が経過していくにつれ、難しい漢字を使うようになっていく。



 そんな小説の世界に没入し、すぐに8:15となり朝の会が始まった。

 今だに朝に歌を聞くという日向子にとって少し苦手な時間が3分ほど続いた後、先生の話になった。



 朝の会が終わると一人の女の子が話しかけてくれた。


 「あなた、何の本を読んでるの?」


 急なことだったので日向子は小さな声で


 「『アルジャーノンに花束を』を読んでる」


 というと、彼女はものすごく驚いた表情をした。


 「え、そんなに難しい本を読んでるの!?私、漢字とか意味とかわからないところがあったから今度教えてくれない?」


 「いいよ」


 そのように返事をしている日向子であったが、頭の中は真っ白になっておりどうすればいいか焦っていた。



 チャイムがなり、1時限目が始まった。

 1時限目は自己紹介を行うということを忘れていた。

 そのため、どのように発表しようか少し焦っていた。


 「須崎小からきました、綾瀬 花です。趣味は・・・」


 皆、噛まずにしっかり紹介できているという光景を見ると羨ましい気持ちになっていた。


 「出席番号13番の人お願いします」


 先生が呼ばれると、ビクッと驚きながら返事をした。

 教卓の前に立つと、急に吐き気やめまいが日向子を襲った。

 多くの人に見られているという緊張と、人との交流を根絶したいたことによる反動のためであった。


 「は、はじめまして。よ、よこはまからきました、安野 日向子です。好きなことは、ど、読書です。こ、これからよろしくおねがいします・・・」


 言い終えた頃には前後不覚となっていた。

 クラスの皆は拍手の音が曇った感じに聞こえていた。

 なんとか、自分の席に戻るも苦しさは戻りそうにない。

 ついには机にうつ伏せになってしまった。

 先生に声をかけられ、体調が悪いと伝えると保健室まで運んでもらった。


 結局、1時限目の8割は寝込んでしまった。

 2時限目までにはある程度体調は回復したので教室に戻ると、何人かの女子たちは


 「大丈夫だった?何かあったら頼ってね」


 と言ってくれた。

 顔を見てみると、発表の前に小説を教えて欲しいと言っていた人だった。


 「あれ、名前は」


 と聞くと夢野 綾乃ゆめの あやのと名乗った。

 彼女も小説が好きらしく、将来の夢は作家になることらしい。

 日向子は今まで小説を読むことはあっても書くことはなかった。



 チャイムがなり2時限目が開始した。

 2時限目は学校の説明らしく、行事や校則、授業についての説明があった。

 校則については珍しいことにスマホの持ち込みが可になっている。

 実は、この学校は私学であり偏差値は脅威の65以上となっている。

 禁止になっていることは髪を染めることだけらしい。

 ゲーム機は部活動で必要となっているところがあるらしく、一応禁止にしていないらしい。

 3時限目になると部活動の説明があった。

 日向子自身、運動は大の苦手のため運動部は絶対に入らないことは決めていた。

 文化部はいろいろとあるみたいで、プリントの中には10種類以上あった。

 

  【運動部】

 ・陸上                ・剣道

 ・サッカー              ・柔道

 ・テニス               ・バレー

 ・バドミントン            ・ラグビー

 ・野球                ・登山

 ・バスケ

 

  【文化部】

 ・eスポーツ              ・美術

 ・吹奏楽               ・写真

 ・オーケストラ            ・書道

 ・パソコン              ・茶道

 ・合唱                ・小説

 

 

 このような感じになっている。

 日向子的には小説部かパソコン部、オーケストラ部が気になっている。

 4、5、6時限目は教科書、ワークなどの配布で終わった。



 帰りの会の際、先生の話にて


 「今日の放課後から部活動の見学と体験入部が行えます。3年間行うものなのでしっかり自分で選んでください」


 と言われた。


 放課後に気になる部活を見ていったが、パソコン部とオーケストラ部は自分との相性が悪そうだったので諦めた。


 最後に小説部を見に行くと、綾乃がいた。

 机に座って、パソコンと向き合っていた。

 隣に座っている先輩らしき人と話していた。

 綾乃と目が会うと、こっちこっちと手を振った。

 見てみると小説が書かれていた。


 「小説を書いてみたから読んで欲しいんだけど、大丈夫?」


 首を縦に動かしながら小説を読み始めた。

 題名は「生きる」だった。

 舞台は小学校で、イジメに遭っている少年は不登校なっているところから始まる。

 毎日が辛くて、一人で寂しくてという感情で毎日を過ごしていた。

 夏のある日、好きな子から一緒に出かける。

 そこで、生きることについて知る。

 期待されなくてもいい、嫌われてもいい。

 うまく生きることができることができなくてもいい。

 生きることが大切であるということに気づいていく小説だった。

 一瞬、水野あつさんの『生きる』が頭をよぎった。

 そして、について少し重なった気がした。


 「すごく胸が締め付けられるけど、生きるとはどのようなことかわかった気がする」


 「すごい、ちゃんと読み解いてる!」


 「これ、水野あつさんの『生きる』を参考にしてるよね?」


 「あ、バレちゃった?でも、展開はオリジナルだから問題ないでしょ?」


 この時、日向子は小説部と綾乃の小説にすごく興味を持った。

 「私、この部活に入部しようかな」


 と言うと


 「日向子も?よかった~、私ボッチで入るのかと思った」


 

 家に変えると父が、


 「今日はお疲れ様。頑張ったな。約束通り今日は本屋に行くから準備をしなさい」


 部屋に荷物を置くと、スマホを片手に家を出た。

 車の中で今日あったことについて話をしていた。


 「今日は綾乃という人と仲良くなったよ。作家が夢らしくて小説が好きらしいよ」

 「新しい友だちができてよかったじゃないか。ちゃんと大切にしなさい」


 「それで、部活について相談なんだけど。私、小説部に入部しようかと思っているの。お父さん、入っても大丈夫だと思う?」

 「やっぱり、そこだったか。僕は賛成だと思うけど、しっかりやっていけるのか?」

 「だから相談しているんじゃん」


 「そうか。これはお父さんの昔の話になるんだが、実は小説家を目指して小説を書いていたんだ。だけど、いい物語が書けずに結局は諦めてしまったんだ。

 小説家は時に孤独で、時には物語が思いつかず途方に暮れたり、ある時には自分を傷つけてしまったりしてしまう職業なんだ。

 それでも負けずに書けるという気持ちがあるんだったら入部してもいいんじゃないかな?」


 「それに負けずにやれると思う」


 「じゃあ、大丈夫だ。お父さんもいるから、何かあったら相談しなさい」



 本屋に着くと、日向子は自分の欲しい小説をカートに入れた後レジに向った。


 移動する途中に「なぜ、人は物語を描き続けるのだろうか」という本と、「小説を書くということとは」という本があった。

 内容的にはという本だった。

 読んでみて、面白そうだったため一緒に購入した。



 家につくと、晩御飯ができていたため食べながらお母さんにも同じ話をした。


 「それだったら、これを使いなさい」


 手渡されたのはキングジム製のデジメモと呼ばれるものだった。


 「小説のアイデアは思いついた時にすぐに書き込まないと忘れちゃうから、そこに書いて起きなさい」

 「ありがとうお母さん。大切にするね」


 ご飯が食べ終わると勉強などを終わらせ、お風呂などを終わらせた。

 やることが全て終わらせると疲れがどっと押し寄せ、ベッドですぐに眠ってしまった。

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とある少女が考える【物語】 安野 夢 @blackman0509

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