第21話「敵の情報」


「どうでした? タクト強かったですか?」

「ええ、剣聖になってからこれほど手も足も出ないのは初めてです」

「ああ、お前もすぐそこで見てたんだからわかるだろ。ありゃバケモンだぜ。あの白と黒の悪魔をぶっ倒したってのも頷ける」

「でしょ! ふふん、だから私は最初から嘘じゃないってあ痛ぁ!?」


 宿に戻る道中、ただ突っ立って眺めていただけのエステルが調子に乗り始めたので、チョップを入れておく。


 そんな中、リーヴァとフィンとの試合を振り返っていた。

 強かった。

 あのレベルで、白と黒の悪魔相手に生きられていたのは、レベルにはそぐわないその戦闘技術があったからこそだろう。


 でも、疑問が残る。

 なぜそこまで剣を極めておきながらレベルが低いのだろうか。

 強ければ強い魔物を倒す事ができる。魔物を倒せば嫌でもレベルは上がるものだ。

 あのエステルでも上がったように。


 少し考えるも答えは出ない。

 でも、それを含めて色々聞く事ができる。


 魔王がこの地に降り立ってからこれまでの戦いのことを。



÷−÷



「まず先に。俺の事については訳あって話す事はできない」


 宿に戻り、もろもろのセッティングを終えた後、最初に断りを入れるところから始まった。


 俺を信じろ。

 でも俺の事は何も聞くな。

 なんて、随分なことを言っている事は分かっている。

 だが、先の試合で十分な信用は得たつもりだ。そうであって欲しい。


 剣聖二人は神妙な顔で静かに頷く。

 エステルは何やら言いたげのようだが、結局はなにも言わなかった。


「でも、人類の見方である事は約束するよ」

「とても心強いです。もしかして守護竜さまの化身なのではとも考えましたが、話せない理由があるのでしたらこちらから聞くような事はしません」

「だな。むしろ守護竜の化身とか、剣の神って言われた方が納得できる強さだったしな」


 すんなりと理解してもらったところでさっそく知らないワードが出てきた。


「守護竜?」

「はい。あの有名な御伽噺です」


 どの御伽噺だ? 七つの玉を集めると出てくるドラゴンの話か?

 なんて考えても俺はこの世界の御伽噺なんて一個も知らない。


「どんな御伽噺なんだ?」

「え! タクト知らないの!?」


 エステルが信じられないと声を上げる。

 正直、エステルが知っている事を知らないのは屈辱だが、言い伝えだの、伝説だのの話はバカにできない。

 実際、他の世界でも古の魔法があったり、伝説の剣があったこともあった。

 素直に聞いた方が良い話だと俺の直感が言っている。


「……知らない」

「ふーーーん。へぇーーー。知らないんだぁ。どうしよっかなぁ。どうしてもってタクトがお願いするなら教えてあげよっかなぁあああああああああやめてぇ! デコピンはやめて! タクトの本当に痛いんだから!」


 このへっぽこ勇者、本当にどうにかならないのだろうか。

 しかし、フィンもマジかよと顔に書いてある。

 ふむ。エステルも知ってるし、この世界では余程有名な御伽噺なのだろう。


「それで、どんな御伽噺なんだ?」

「簡潔に言いますと、その昔に魔王が現れ、2頭の竜がそれを滅したというお話です。いつの時代かもわからないほど古い話なのですが、その時の痕跡や竜を祀った物が多く残っている事からとても有名な御伽噺なんです」


 成る程。

 あくまでも御伽噺ではあるけど、歴史的な根拠もあると。

 それで色々と明かせない俺を見て、その竜の化身ってわけか。


 もしかしたらその竜は昔の救済勇者を模しただったのかもしれないな。

 いや、2頭だから違うか?


「恥ずかしい話ですが、今の人類はその御伽噺にすら縋らないといけないほど追い詰められている状況です。今生存している5人の剣聖のうち2人はその守護竜さまの捜索に当てられています」


 実際に捜索ってマジか。

 神頼みならぬ御伽噺頼みってことか。

 捜索するくらいには現存する可能性があるってことなのかもしれないけど。


「現に魔王がいたのなら、その竜もいるかもしれないと」

「そうですね。ですが、良い報告は届いていません。もはや人類に残された時間は残り僅か。残り3割と言われている青い空を失うまでの希望としてはあまりにも薄いものです」


 残り3割。

 前にエステルから聞いた数字と同じだな。


「前にもエステルに7割が魔王の手に落ちていると聞いている。さっきの話ぶりだと魔王が現れたのは3年前だよな。7割って聞いてから今日までそれなりに時間が経っているけど、持ち堪えられているって事なのか?」

「おうよ。空が奪われていく間、俺たちもやられっぱなしじゃねぇ。11いる悪魔たちを9殺ってんだからな」

「11の悪魔?」

「はい。魔王出現当初11の悪魔が人類を蹂躙していきました。それらをこれまでに9体の討伐に成功しています」


 凄いな。神たちが敬遠するほどの難易度にかかわらず、そんなに善戦していたのか。

 いや、待て。

 なんか話が変じゃないか?


「11のうち9? その話だと俺が白と黒を倒したのを入れと全部倒した事にならないか?」

「その通りです。これで残りは魔王のみ。魔王の情報は一切ありませんが、居場所の見当はついています。全戦力を投入してーー」

「魔天四席はどうなんだ?」

「魔天……なんですかそれは」


 知らないだと?

 最も知りたい情報の一つだったが、知らないのか。

 剣聖が知らない。

 つまりは魔天四席はまだ姿を表してすらいない。


「魔天四席と言う魔王の側近がいる……と白い悪魔が言っていた。白い悪魔が足元にも及ばないほど強いらしい。多分、嘘じゃない」

「そう、ですか……」


 分かりやすく悲観的に落ち込むリーヴァ。

 フィンは首を後ろに折って天を仰いだ。

 無理もない。

 けど、これに目を背けるわけにもいかない。


「その魔天四席よりも俺の方が強い、なんて無責任な事は言えないけど、いるならなんとかするしかない」

「すみません。そうですね。微力ながら共に戦わせて下さい」


 それからも夜遅くまで情報の交換を行なった。

 もっとも、情報をもらう側だが。

 情報は魔王が現れてこれまでの戦いについて、どんな奴がいたのか、どれ程強かったのか、またその戦いでどれ程失ったのか。


 流石最前線で戦う剣聖。他では知り得ない情報も多かった。


 まとめるとこうだ。

 侵略を進めていた11の悪魔は全て討伐され、残るは魔天四席と魔王のみ。

 いずれも情報はなし。

 だが、魔王の居場所には検討がついている。


 リーヴァたちのレベルが低い事についても謎が解けた。

 普通、魔王は魔物の大群を生み出し、その軍力を持って侵略を進める。


 だが、この世界は違うようだ。

 この世界の魔王は魔物の大群を生み出していない。

 話によると魔王が生み出したのは11の悪魔のみ。いや、魔天四席を入れれば15体だけだ。


 雑魚を生み出ささず、少数の魔王級に強い魔物しか生み出していない。

 魔王級に強い魔物……いや、もはやアレは魔王だったのかもしれない。

 他の剣聖が倒した悪魔の事も細かく確認したが話を聞く限り、魔王と言っても差し支えない。


 勇者たち三英雄と同じように、魔王もまたユニークスキルを持っている。

 まさか、この世界の魔王のユニークスキルは魔王を生み出す能力、もしくはそれに近いものなんじゃないのだろうか。

 もしそうだとしたら、そのユニークスキルの使い方がどうしようもない程に考え込まれていることになる。


 わざと人類に経験値を与えないようにしているんだ。


 いるのは魔王軍関係なしの野良の魔物。最初に見たゴブリンルーキー程度の雑魚が少し生息するだけ。

 経験値を得る魔物がいないのなら、レベルの上げようがない。

 狂気の発想として、人間同士殺し合えばまた別だが……。


 そんな背景があって、リーヴァやフィンのようなレベルに見合わない剣聖が存在するわけだ。


 俺の事を天使と呼び、俺と言う存在を知っている。

 一体この世界の魔王はどんな奴なのだろうか。




「もう夜が明けてしまいますね」


 窓から白んだ空が見える。

 エステルはと言うと、とっくにテーブルに突っ伏して寝ていたが、剣聖は徹夜に慣れているのか眠気を感じさせないでいる。


「一つ、訪ねてもよろしいでしょうか」


 リーヴァはだらしない寝顔を見せるエステルの頭を優しく撫でながら問う。


「魔王の討伐にエステルは必要でしょうか。もし、必要でないのであればーー」

「必要だ」


 その問いに俺は即答した。


「勇者、聖女、賢者は世界が魔王を倒すために最も最適な人を選ぶ。エステルの剣の実力はともかく、そのユニークスキルは必ず魔王を倒すのに必要になる。これは間違いない」


 俺もエステルを見て疑いたいの山々だが、それは絶対だ。


「そうですか、何故エステルなのでしょうか」

「それは……俺にも分からない。勇者によって与えられるユニークスキルが違うからな、魔王を倒すのにエステルの能力が必須なんだろうけど、こればっかりは本人に聞いてみないと」

「本人とは?」

「そりゃ選んだ本人だよ。世界の意思。俺は星霊って呼んでいるけど」

「タクトはその星霊に会ったことが?」

「ないよ。会うための手段が途方もないからね」


 星霊に会ったことは別の世界で4度だけだ。

 確かにこの世界の星霊に会って何故エステルを勇者に選んだのか問いたいところだけど、そんな余裕は無いからなぁ。


「会ったことがないのに随分と詳しいですね。勇者によってユニークスキルが違うことも初めて聞きました」

「……」


 少し眠気があるせいかちょっと喋りすぎたか。


「今日はここまでにしよう。今後の方針はまた今夜に」

「わかりました。あ、そうでした。これから神殿に用があるのですが、もしよろしければタクトもどうでしょう」


 用? 昨日の様子からして警備か何かか?


「本日聖女さまから謁見を賜っているのです。この腕の治療のために。今後の方針によっては聖女さまのお力を借りる事もあると思いますし、恐らくタクトたちがここに訪れたのも聖女さまにお会いするためですよね? 私の紹介でタクトも一度会っておいた方が話も進みやすいと思いまして」


 あ……。別に今の今まで聖女の事を忘れていたわけじゃないよ?

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へっぽこ勇者パーティーでも世界を救わせてあげたい 〜99の世界を救った歴戦勇者でも度し難い〜 篠原シノ @Shino_Alice

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