なんか在り来りな話

砂歩

理不尽な世界

私が愛したものはこの世界から消える。

比喩でもなんでもなく、文字通りこの世界から消えてなくなる。

お菓子も。動物も。本も。景色も。そして、人も。私が好意を抱いたものは、その存在が概念毎消失して誰の記憶にも残らない。

唯一覚えていられるのは私だけ。

だから私は愛さない。愛してはいけない。


朝食は1杯の青汁。私の最も苦手とする飲み物だ。独特の苦味と青臭さがどうしても受付けない。

でも私は青汁しか飲まない。他のものを飲んで美味しいと思ってしまったら、好意を抱いてしまったら、この世界から消えてしまうから。

現に、この世界にはオレンジジュースもファンタグレープも存在しない。私が消してしまったから。


吐き出したい気持ちを必死に堪え、青汁を一息に飲み干した私は、昨日の学校での出来事を思い出していた。

「好きです。付き合ってください」

私に向けて発せられたその好意に、言葉に、私は強い怒りを覚えた。

私は誰も愛する事が出来ないというのに。何故目の前の彼は平気で愛を伝えてくる事が出来るのか。

分かっている。彼は何も悪くない。むしろ好意を抱いて貰えるなんて、本来光栄な事のはずだ。頭の中では理解出来ている。でも理解出来ているからといって納得できる訳では無い。

気づいた時には言葉を発していた。



「ねえ、オレンジジュースって知ってる?」

「え?おれん?なに?」

「ポッキーは?猫は?はてしない物語は?星空は?」

「ぽっきー?はてしない?え?なんの話し?」

「何も知らないくせに私の事も、私が"した"事も」

「え、どうしたの?俺なんかした…?」

「もう私に関わらないで」

「えっ、ちょっと…」

追いすがってくる男子生徒から逃げる様に家に帰った。

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