第6話 予期せぬ参拝者①⭐︎
※サブタイトルの⭐︎マークは【背後にご注意を】マークです。今後、この注意喚起は無くしますのでマークでご判断ください。よろしくお願いします。
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大佑は書いていた日記を閉じ、黒須を睨み付けた。
「どうやって、入ってきた」
「どうやってって……普通に散歩してたら、丁度いい高さの山だなぁ、ちょいと行って見るかぁって感じ?」
「……」
「まぁまぁ、そう睨み付けんなよ。せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」
『可愛い顔』という言葉に、大佑の眉間の皺は益々深くなる。
何故なら、その言葉は大佑にとって一番触れられたく無い言葉だからだ。
大佑は身長こそ平均並みだが、天狗様からの恩恵もあるせいか、はたまた低いとはいえ毎日、神社までの山を登っているせいか、過度な運動をしていなくとも、無駄な肉が無い引き締まった身体だ。そんな体型には似つかわしく無い、愛らしい顔付き。なのだ。
大きな黒目がちなハッキリとした二重、筋の通った鼻梁、何も付けていなくても赤い唇は口角の上がった形のよいものだ。それらは全て母親似であった。大佑は知らないが、彼が生まれる前までモデルの仕事をしていたという母親は、今でも近所の同年代の女性よりは若々しく見え、可愛らしい顔立ちだ。母親の事は嫌いでは無い。だが、この顔のお陰で、子供の頃から「女かと思った」やら「男女」やら自分ではどうする事も出来ない部分で勝手にガッカリされたり、色々言われたりして来た。挙げ句の果てには、女子よりも可愛いと女子から言われ、女子が避けていく……。
それでも、大佑は好きになった子には積極的に声を掛けて付き合った事もある。が、「大佑くんの隣にいると、自分が可哀想に思えちゃうの」などと言われ、一週間もせず破局。
キスだって、性的な事にだって、興味がない訳はない。寧ろ好奇心の塊だった。数少ないマセた友達は経験済みの中、多感な少年は、キスはおろか、手を繋ぐ事すら出来ずに破局を迎えていたのだ。
そんな、ある意味で可哀想な少年・大佑は「恋すらまともに出来ないのかよ」と、自分の顔を嫌った。
三度の失恋を経験した直後。大佑は、前髪で顔を隠すことが増え、今ではそれが彼の当たり前になっている。
「こんな長い前髪じゃあ、本来見える物も見えにくくなるだろ」
いつの間か大佑の目の前に立っている黒須が、大佑の前髪を上げた。
「うん。やっぱ前髪が無い方が可愛い」
あまりのスムーズな動きに驚き、大佑は絶句したまま黒須を見上げる。
逆光で黒須の顔はよく見えないが、この光景に何かを思い出しかけた、その時だった。
唇に柔らかく冷たい何かが触れる。
それは一旦離れては、また重なり、不思議と甘さを感じた。果実を食べるような、はたまた花の蜜を舐めるような。初めてのはずが、この甘美を、自分は知ってる気がした。
脳の奥が痺れる感覚が心地よく、自然と目を瞑る。濡れた音が耳に響く中、唇にぬるりとした物が当たり、大佑の口を開けようと唇を叩く。促されたそれに応えるように無意識に口を開ければ、口内に入り込むそれにより、音は激しくなった。
腰を強く抱かれ、下腹部に何か硬いもの当たり、それと同時に自分の下半身が熱く滾る。
全身に電流が走った様な痺れを感じ、ハッと意識が戻ると、大きく目を見開いた。
目を開いたそこには、目を閉じる黒須の顔が視界いっぱいにあり、大佑は両手で思い切り彼の胸を突き飛ばした。
「何すんだよ!!」
口元を手の甲で拭い、いつでも逃げ出せるように体制を整える。
本当は、今すぐ走って逃げ出したい。が、しかし、神社に明らかな不審者である黒須を置いて逃げるわけにはいかない。
混乱する頭の中でも、一部冷静な隅っこの方で『逃げるなら、まず本殿の鍵を閉めなくては』などと考えていた。
「柘榴のように真っ赤に熟れた唇が、美味そうだなぁと思って」
悪びれもせず、にっこり爽やかな笑顔でいう黒須に大佑は益々目を大きく見開く。
「ふざけるな! お前、そっち系なのか? 俺にはそんな気は無いから他を当たれ!」
「その割には、気持ち良さそうに目を閉じてたけどなぁ? そちらもお元気で」
そう言って、黒須は顎で大佑の下半身を指す。黒須の言葉に、自分の下半身に熱が集まっているのに気が付き、一気に全身が熱くなった。
気持ちがいい。
それは、図星であった。
が、それを認める訳にはいかず、何も言わずに睨み付けるのが精一杯だ。それを見た黒須は「図星だろ?」と言い、ニヤリと口角を上げる。益々、大佑の顔が赤く染まる。顔だけでは無い。耳も首も熱いと感じるほど、赤くなるのを感じる。
「耳も首も真っ赤」と、黒須は声を抑えるようにしてクツクツと楽しげに笑う。
大佑は恥ずかしさのあまり、本堂へ駆け込み内鍵を締め閉じこもった。
「おい、大佑、悪かったって」
扉の向こうから黒須の声が響く。
その声には、揶揄いは感じられない。
「出て来てくれ。お前に伝えておきたい事もあるんだ」
伝えておきたいこと、という言葉が妙に気になりはしたが、大佑は扉を開けることは無かった。
「大事なことだ」
「聞く気はない! もう、さっさと帰ってくれ!」
その叫びに、僅かばかりの沈黙後、黒須は「また来るよ」と言い残し、足音が遠退いていった。
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