大月くんは朝から元気だ
次の日。
「ひーかーりー!」
朝から元気な声が教室の外から聞こえてきて、私は思わず振り向いてしまった。
「お、おはよう。大月くん」
昨日まで誰にも近寄らなかった大月くんが、今日は私に話しかけてくる。
周りの視線が痛い……。巻き込まれたくないという空気が、教室中に漂っている。
私も巻き込まれたくないけど、よろしくしてしまった以上無視するわけにもいかない。
「今日は放課後、屋上に行かないかい?」
「屋上? どうして?」
「そりゃあ、不可思議な存在を探すためさ」
なるほど。昨日の自殺未遂事件で、学校にまつわる七不思議でも探そうという考えなのかもしれない。
「でも、屋上って施錠されてるんじゃ……」
言いかけて、大月くんの笑顔を見て言葉を飲み込んだ。
まさか、鍵を持っているの?
「じゃあ、よろしくね」
そう言うと満足したように、大月くんは教室から出ていった。
吹き荒れる嵐が過ぎた教室は、いつもどおりになる。けれど微かな視線を感じてしまうのは気のせいだろうか。
その中で、屈託なく私に話しかける女の子がいた。
「なに? どういう関係?」
「どういう関係って言われても……」
私の前の席に座っている友人である優子は、彼女が大好きな本を閉じて私のほうを向き、興味深そうに聞いてくる。
「言えないような関係なんだ? 高校生らしいじゃん」
「ちが、違うくて……」
それは本当に違う、勘違いしないでほしい。
「じゃあ何?」
「……不可思議と遊びたいっていうからさ、そのお手伝い? みたいな感じ」
上手く話すことの出来ない私は、そのまま素直に言ってしまった。まぁ彼はあんな感じだし、内緒にしているわけでもないだろう。
「そうなんだ。いいね」
こういうときに否定しないと分かっているからこそ、言ったところもある。彼女は本当に良いねと思っているような顔で、サムズアップしてくれた。
「……うん、いいよ」
なので私も、サムズアップで返す。
それから昨日のことを話そうとしたけれど始業のチャイムが鳴ってしまったので、お預けになってしまった。お昼休みにでも、話せたら話そう。
○
「それじゃ、行こうか」
放課後、大月くんは私の手を引いて屋上へと向かった。途中で誰かに見つかったらどうしようと心配になったけれど、不思議なことに誰とも出会わなかった。もうみんな、帰るか部活に行くかしたのかもしれない。
屋上のドアの前で、大月くんはポケットから鍵を取り出した。
「どうやって手に入れたの?」
「借りただけさ」
誰から借りたのかは聞いても言わないんだろうなと思いつつ、私は屋上に出た。
そこには、夕暮れの風が吹いていた。
「ここなら、きっと何かが見えるはずだよ」
大月くんは屋上の端に立って、下を見下ろしている。その横顔は真剣そのもので、私は思わず見とれてしまった。
その時、背後から風が吹いてきた。
いつもの風とは違う、冷たい風。
「!」
振り返ると、そこには……。
「見えた?」
大月くんの声に、我に返る。
「え? なに?」
「透明な影が、君の後ろを通り過ぎていったよ」
「嘘でしょ!?」
私は思わず後ずさりした。けれど大月くんは、むしろ嬉しそうだ。
「やっぱり、ここには何かがいる。僕の勘は当たっていた」
その言葉を聞いて、私は改めて思う。
この後輩は、本当に不思議な人なんだと。
そして私は、その不思議に惹かれてしまったのかもしれない。
「明日も来よう」
「うん」
私はまた、安易に頷いてしまった。
これが第二の運命の分かれ道だったことに、その時はまだ気付いていなかった。
大月くんは不可思議と遊びたい 城崎 @kaito8
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