大月くんのことは全然分からない

「ちょっと大月くん!? なんなの、全く……」

 先ほどの空き教室に戻ろうとしたのも束の間、野次馬から見学されるのが不快で荷物を持って外に出た。大月くんも荷物を取りに行ったのにちょっと驚いてしまったのは内緒だ(彼なら手ぶらで学校に来てそのまま授業を受けていそうという偏見があるため)。

 かといって二人で行く場所なんて思い浮かばず、とりあえず帰り道を歩く。

 確認すると、大月くんも同じ方向だそうだ。それは良かったと思いつつ、何がいいのかは全く分からなかった。

「幽霊が本当に死んだ場所に留まるかどうか気になったまでだけど」

「までだけど、じゃない!」

「そうは言ってもね、学校での死亡事故や事件なんて滅多に起きないんだ。起きることへの奇跡を享受しようとしていたのに」

「あの後、あの人もう学校では死んでやるものかって言ってたけど」

「そうか、それは残念だ」

 全然残念じゃなさそうな口調で彼は、しかしそう言った。

 全部本気で、全部冗談じゃないところが彼の厄介なところかもしれない。愉快犯なのに、全然愉快じゃないのだ。

「ところで、ひかりはいつまで僕のそばにいるつもりなんだい?」

「い、いつまでって……」

 そう言われて、気が付いた。

 こんなおかしな後輩に付き合う義理はないのだ。

 彼は自分の瞳に見惚れていたことに気付いて私を不可思議と遊ぶこと(?)に誘って来たけれど、強制はしていない。

 それに、さっきのを見た後だから余計にそうも言うんだろう。

 それはそれで身勝手な発言だと思ったけど、まぁ、高校生なんてそういうものだろう。責任を感じろというほうが難しい。

「……不可思議と遊ぶって、具体的にどういうことを考えているの?」

「む、質問に質問で返すのは感心しないな」

 大月くんでもそういうところは気にするんだ……と思いつつ、私は質問の答えを促した。

「まぁまぁ。答えてよ、気になるから」

 大月くんは不服そうに唇を尖らせていたけれど、やがて私の視線に負けたのか、口を開いた。

「不可思議と遊ぶっていうのは、なんていうんだろう……正直まだそういう存在と出会ったことがないから、分からないかもしれない」

「そうなんだ」

 大月くんでも分からないことがあるんだと思うと、なんだか不思議な感じがした。

 でもそれは偏見で、私はまだ彼のことを何一つ知らない。知らない中で、勝手にこうだと決めつけているのだ。それはなんだか、もったいないような気がした。だから私は、決意する。

「もうしばらくは、大月くんについていくよ」

「本当に?」

 信じられないとでも言いたげな大月くんに、

少しムッとしてしまう。

「そっちが誘ったんでしょ」

「だとしても、いいのかい? 不可思議なんて、見つけられないかもしれないのに」

「それでもいいよ」

 私は大月くんの前に出て、出来るだけ真剣な目で見つめた。たじろぐ大月くんも意外だ。

「何もいないって分かるんなら、それはそれでもいいんじゃない? 何もいないほうが、私適には都合がいいしね!」

「そう……それなら止めはしないよ」

 私はそのまま、手を差し出した。

 なんの手だろうみたいに首を傾げる大月くんの手を、無理やり取る。

「これからよろしく!」

「ああ、よろしく」

 巻き込まれ体質じゃなくて、巻き込まれたい体質だったっけ?みたいな思考を振り払う。

 これでいいんだ。

 満足した私は、自分の家を通り過ぎてしまった。そして、その先にあった大月くんの家を知ることになる。

「ご、豪邸じゃん!?」

「よく言われる」

 大月くん、全然分からない。

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