僕が【視えていた】

「おばーちゃ」


「んー?どしたの、すーちゃん」


「あ、あ」


 君は、良く僕の事を指差していた。


「どしたの?何かいる??」


 君のおばあちゃんは、僕の事を【視えて】いなかったみたいだけど。


「あー、あ」


 小さくてふっくらした手で僕を指差しながら、君は大きな目で僕を見ていた。


 何百年振りだろう。


 人間に見つけてもらったのなんて。



* * *



「野菜のおじちゃん、こんちはっ!!」


「おー、すーちゃん。こんにちは~」


 "すーちゃん"と呼ばれている君は、ほぼ毎日この神社に来ていた。


 何の変哲もないこの神社に。


 他に行く所なんて、たくさんあるだろうに。


「・・・あの子・・・、今日はいないのかぁ」


 けれど、毎回僕の事が【視える】訳じゃないらしい。


 君が僕と目を合わせるのは、数日に1回だけ。


 たぶん、この世のことわりが邪魔してるんだろう。


(・・・まぁ、だからといってどうこう言うつもりもないけど)


 君も僕も目を数秒合わせるだけで、僕はすぐ隠れる。


 だって、人間はすぐに居なくなる。


 僕と違って、死の匂いが濃いから。


 あんまり深く関わっても、会えなくなって悲しくなるだけ。


 ・・・それがわかっていても、"君に見つけてもらいたい"と思うのは、わがままなんだろうな。



* * *



~数年後~


「ねねっ!!」


 君が僕の背を少し越した頃、初めて話し掛けて来た。


「・・・」


「あれ、もしかして、喋れない??」


 キョトンと首を傾げる君を見て、僕は少し身を引いた。


 深く関わり過ぎると、後々苦しくなるだけ。


 だから、あんまり近づかないように・・・。


 そう思っていたのに、君は僕の真横にドンッと座った。


"ビクッ"


(ち、っか・・・!?)


「君、"愛璃"っていうんでしょ」


 100%わかってるくせに、ジッと僕の事を見つめて来る。


 思わず目を逸らすと、君は僕の視界に無理矢理入って来た。


「っ・・・」


「怖がんないでよぉ」


 少し残念そうに笑いながら、君は僕に手を伸ばした。


「小さい頃から、ずっと助けてくれてありがとう。名前知ってるかもしれないけど、私は神代涼澄。涼澄って呼んで!!!」


 他の人間より圧倒的に死の匂いが強いのに、君は笑っていた。


 『変な奴』と思いながらも、僕は渋々差し出された手を握った。


 僕より小さく、火傷しそうな程に温かい手を。


 返事をしなかったのに、君は満面の笑みになった。


「よろしくね、愛璃君っ!!!」


 梅雨が終わったくらいの、暑い夏の日だった。


 きっと、日差しが熱かったんだ。



 ―――――僕の頬が熱かったのは。

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