神様の夏恋

瑠栄

私には【視えている】

「おばーちゃ」


「んー?どしたの、すーちゃん」


 私・神代涼澄かみしろすずは、小さい頃『すーちゃん』と呼ばれていた。


 その時から、私はよく"おかしな事"を言っていたそうだ。


「あ、あ」


 まだ言葉が拙かった頃から。


 よく何も無い場所を指差していたそうだ。


「どしたの?何かいる??」


 そう言って笑いながら、おばあちゃんは私を家に連れて帰っていた。


「あー、あ」


 私が最初に【視た】子は・・・、確か紺髪に狐の耳と尻尾が生えた男の子だった。



* * *



「げほっ、ごほっ・・・」


「すーちゃん!?」


 病院で検査して、家に帰って、体調を崩して、また病院へ。


 そんな生活の繰り返し。


「はぁ・・・、っはぁ」


"ボタボタッポタ"


 運が悪い時は、吐血する事もあった。


 目の前に広がる鮮明な赤の液体を見る度に、また気分が悪くなって・・・。


 ホント、悪循環も甚だしい。


* * *


「ふぅー」


 家から遠出も出来ないから、私が遊びに行けるのは近所の小さな公園かおじいちゃんが神主さんをやっている愛璃あいり神社くらいだった。


 断然神社に行く事が多かったけど。


 理由は、3つ。


 1つ目は、景色がとっても綺麗だから。


 春はピンク、夏は緑、秋は赤、冬は真っ白。


 神社のふーかくもあって、じょーちょある風景になってるんだ!!!


 2つ目は、色んな人と会えるから。


 野菜を届けてくれるおじちゃんと他の神主さん、巫女さん達もとってもかっこいい!!


 たまに、お菓子もくれるから楽しみなんだ。


 3つ目は、あの子・・・に会えるかもしれないから。


 数日に1回くらい、私は狐みたいな子に会う。


 その度に、ちょっとだけ顔を見合ってどっか行っちゃうんだけど。


『ど・・・、したのぉ??』


「・・・」


 こういうのは、振り向いたら負け。


 後ろから声をかけられてぎもんけーの時は、だるまさんが転んだの逆バージョン。


 何があっても、振り向いちゃダメ。


 答えてもダメ。


『ねぇ、ね、ぇ・・・、どした、のぉぉ???』


 フッと後ろから影が射した。


 大男2、3人分くらいの大きさの影。


「っ・・・」


 ブルブルと全身が震え出すけど、逃げちゃダメ。


 逃げても追いかけて来るし、絶対追いつかれちゃう。


 他の人に助けを求めるのも、ダメ。


 皆にはこれ・・が見えてないから、すぐに訳が分からないまま喰べられちゃう。


 つまり、こういう時は何も言わずにジッと我慢する。


『ね、ぇ・・・、ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇ!!!!!!』


「っぅ・・・!!!」


 後ろから、何かに肩をガッシリと掴まれる。


 思わず両手で口を塞ぐ。


 ダメ。我慢するの。


 声を出したら、ペロリッて喰べられちゃう。


 肩に乗っているものは見ないように、ギュッと目を瞑る。


(お願い・・・、早くどっか行って・・・!!!)


「・・・散れ」


"ブワッ"


「・・・え?」


 肩の重みがなくなり、いつの間に冷えていたのか手の感覚が戻って来た。


 顔だけ後ろを振り返ると、あの子・・・がいた。


「・・・」


「あ、ありがっ、ごほっごほっ!!!」


 思ったより長く寒さに晒されていたらしく、体調が急激に悪化し始めた。


"ドサッ"


 立っていられなくて倒れると、視界がグニャリと曲がり出す。


 あの子・・・は、心配そうに私の間にしゃがんで慌てている。


「だ・・・、じょ・・・」


 『大丈夫』と言おうとしたけど、その前に私は力尽きて意識が遠のくのを感じた。

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