19話 2つの約束と1つの再会

「正直、意外だった」

「ん?それは俺の考査の結果について?それとも告白の顛末について?」

「前者って分かってるでしょ?今の雄斗なら平均は取らないって思ってたのに」

「勝負としてはお前の勝ちだし別に良いんじゃないか?」

「そう。それで、私は雄斗との賭けに勝ったけど_どうしようかな?」

「そうだなぁ。じゃあ、早く帰るぞって形にしておこう。ほら、行くぞ」

「そうだねって私の勝ちなんだけど?じゃあ、もう今日は保留にしておこうかな」

「まぁ、有栖はまともな頼み事しかしないだろうし何でも聞くさ。あ…そうだ。有栖、お返しだ_ほら」

「モンブラン、だよね。覚えててくれたんだ。私の好物を」

「覚えるも何も前々から知ってるし去年も食べに行っただろ?ほら、家の近くの喫茶店にさ」

雰囲気って知ってる?と膨れっ面を見せた辺り、また選択を間違えてしまったらしい。

「まぁ、でも凄く嬉しい。ありがとう。そういえばさ…意味は知ってる?」

「意味?あぁ、人に贈る時に隠語として載ってたな。マカロンなら『好きです』って感じの奴だよな」

「そうだけど_。因みにモンブランの意味って知ってる?」

「意味なぁ。さぁ…どうだろうな?どうせなら、知ってるかどうか賭けてみたらどうだ?」

本当に辛辣だね…素直に話してくれたら良いのにと述べながらも大事そうにしまうと右腕を強奪された。

「疲れちゃったから。ちょっと貸して」

「え、ちょっ_。分かった、分かったから。ちょっと痛いんだけど!後、ちょっと恥ずかしいんだが」

「ふふっ。やっぱり其処は変わってなかったね。良かった良かった」

「有栖は良いかもしれないけど_俺は良くないんだが?」

「私が満足してるから良いの」

有栖のそういうところも変わってないけどな。そう呆れるのだった。

因みに愛嬌あるところ。と言い掛けたが流石にそれは言えなかった_調子に乗るしな。

 ******************

家に帰ると何故か玄関で怜奈が鎮座していた。

「ど、どうしたんだ?急に」

「ちょっと聞きたいことがある」

「そ、そうか。急に畏まって俺に何を聞くんだ?」

「雄斗。御飯にする?それともお風呂にする?それとも_」

「どれもなしだ。そもそも怜奈は余り料理しないし風呂も多分だけど沸かせないんじゃないのか?」

風呂はいつも俺が沸かしてるしだろ。と突っ込と

「何で3つ目の選択肢を聞かなかったの?」

とジト目をされた。怜奈にその台詞を言わせるのはまだ早いからな。未然に防ぐお兄ちゃんって訳だ。

「はぁ。お兄ちゃんったら。あ、因みに安心してね。ちゃんと風呂は沸かしたから」

「と、取り敢えず部屋に上がらせてくれ。後、沸かしたって本当なのか?」

まぁね。と自慢気に胸を逸らす怜奈の横を通り過ぎて俺は部屋に入る。

「また平均だったなんてね。おめでとう。で良いのかな?」

「それは、どうも。成績で見れば怜奈も上位だっただろ?おめでとう。それと…怜奈」

「モンブランってことはバレンタインのお返し?ありがとうね、雄斗」

「あぁ。喜んで貰えてって_突然、抱き着くなよ」

「だって、お兄ちゃんのこと大好きだし」

本当に怜奈は変わったよなぁ。と思いつつ俺は怜奈を引き剥がすと部屋着に着替える。

「そういえば、お兄ちゃんは柊木さんにもあげたんだよね?」

「あげたよ。まぁ、中身は同じモンブランだから差はないようにしてるけど」

「ふーん、そうなんだ。喜んでた?」

「え?そりゃあ、喜んでたけど」

そう。と零すと何故か黙ってしまった。俺も片付けをしていたが気になり口を開こうとした途端、

「ちょっと機嫌が悪くなった。それを解消する為にも肩を揉んで」

「え、別に良いけど。どうしたんだ?俺、何かした?」

「した。それはそれは私の今後の生活において影響が出る程の深刻な問題。よってそれを解消して」

謎に機嫌を悪くさせたようだ。対応が正直、理不尽極まりないけど。そう愚痴りながらも揉んでやる。

「あ、アイス買ってよ。お金は半分出すからさ。何を買うのかは分かってるよね?」

と追加の注文をされた。知ってるか?俺は義兄だけど召使じゃないからな?

「買わないの?そんなことするなら…私、お兄ちゃんに全力ハグするよ?」

「はぁ。買えば良いんだろ。ダッツのミント味で良かったよな?後、お金はちゃんと出せよ」

うん。お金は半分だけどという抗議をちゃんと無視し俺は外へと出た。

「付き合ってられねぇわ。そういえば、召使で思い出したけど_彼奴は元気でやってるのかな?」

ふと彼女のことを思い出した。昔、俺の世話をしてくれた少女で名前は確か

「えっと、何だったけ?若菜なのは覚えてるんだけど_。苗字がどうにも覚えてないんだよなぁ」

ずっと下の名前で呼んでたし幼少期の頃だから記憶も殆どないがそれでも感謝はしている。

それが名ばかりではないものだと証明する方法は残念だが持ち合わせてなかったけど。

 ******************

何時だっただろうか?昔のことなのでハッキリとは覚えてないが4、5歳だったのは覚えている。

「今日から君は此処に住んで貰うよ」

俺は養子として大きな屋敷に住むこととなった。孤児だった俺の実の両親は既に他界していたと後に知った。

その頃は何にでも突っ込むタイプだったから俺は何にでも取り組んだ。それは孤児院の環境故えなのだろうか?

「雄斗様。今日もお疲れ様でした。途中、様子を見てましたが素晴らしかったです」

彼女は『白織しらおり若菜』という名で俺の世話係だった。勿論、名ばかりで俺と同年代の少女だ。

「雄斗様。お飲み物です」

「ありがとう」

バイオリンの練習から部屋に戻るとすぐに算数の勉強が始まる。休める時間なんて5分もない。

「だから、この時間が大事なんだよなぁ」

「しみじみするのも大事ですが遅れるとまた怒られますよ」

とこんな感じで彼女はクールだった。それは、小学校へ上がっても変わらなかった。

「(学校で喋ることないけど、若菜は元気なのかな)」

教室でふと思った。学校では関係性を隠蔽する為に人前以外で話すことを禁じられていたのだ。

「なぁ、知ってるか?雄斗。あの隣のクラスの女の子」

「名前を言わないと誰か分からないだろ」

「白織さん。名前は忘れたけど。まぁ、めっちゃ美人なんだって。クール系でさ」

「でも、お前には天乃さんが居るだろ」

と俺は軽く流したが内心でh気になっていた。その後の話で彼女が男子から凛としている姿が人気を集めていることを知った。

「何でも出来るって凄ぇよなぁ。まぁ、それはお前も同じか。興味あったりするの?」

「ないよ。だって、喋ったこともないし。それに、俺は女子に対して余り興味がないんだ」

「そういえば、そうだったよな。まぁ、興味はそれぞれだから良いけどさぁ」

そう言葉を零す航であった。それから俺は家へ戻り若菜に今日のことを尋ねた。

「あぁ。それですか。既に何回か告白されましたよ。勿論、全てお断りしましたが」

「まぁ、俺の義父さんが許さなさそうだよね。ごめんな。俺に仕えてるばかりで」

「いえ、私は結婚する人をある程度決めておりますので。お構いなく」

その時は俺も言葉の真意を知らなかったが彼女は俺と結婚する寸断だったらしい。


 ******************

「(今となっては、もう破談したけど。当時の俺の弱さを理解してくれたのは若菜だけだったしな)」

実際、学校でマトモに喋るのは古くから交流があった有栖や航、天乃さんだけだし仕方ないことだが。

「(今では3人のことは信用してるけどその時は若菜だけだと思ってたからなぁ)」

だが、そんな若菜ももう俺の側には居ない。養子を辞めたのだから当たり前だ。

「(あのまま仕えるんだったら別の人を世話してるだろうけど…きっと幸せになってるんだろうな)」

そんな考え事をしてた所為でコンビニから出てくる人とぶつかってしまった。

「あ、すいません。よそ見してて。だ、大丈夫ですか?」

「わ、私こそ。前を見てなくてすみません」

何処かで聞いたことがあるような声がしたが気の所為だが_まずは…倒れ込んだ少女を起こそうと手を貸し

「あ、ありがとうございま_」

「どうしたんですかって…え?」

其処に居たのは公園で出会った生意気な少女でありながら、

「お前。もしかして、若菜だったのか?」

「は、はい。その、お久し振りですね_元気そうで…良かったです。雄斗様」

嘗て俺の側で仕え、婚約を結んだ少女でもあった。

 ******************

「ねぇ、お姉ちゃん」

私はそう呼んだ。まぁ、正確には姉じゃないんだけどね。従姉妹だし。

「どうしたの?有栖。分からない問題でもあったの?有栖にしては珍しいけど」

そうやって勝手に自己完結しないでよと愚痴りながらも私は隣へ座った春乃さんに切り出した。

「最近、幼馴染が私のことを異性で見てくれてない気がする」

「幼馴染って_あぁ、雄斗くんね。汐屋雄斗くん。異性でってことは好きなの?もしかして」

「好きって訳じゃないけど…ちょっと気になるっていうか」

「でも異性として見られたくても幼馴染として関係性を築いている以上、それ以上はやっぱり厳しいわね」

「どうしたの?何か気になることでもあった?あ、このアイスはあげないからね」

「やっぱり雄斗くんのこと好きじゃないの?」

好きじゃないと改めて伝えつつも心の内では分かっていたことだった。

「じゃあ、学力を争うライバルになるようにでも聞いてみたら?」

それは、ちょっとズレてる気がすると返しつつ溜め息を吐く。本当にどうしたら良いのだろう。

「もし、好きになったとしたらやっぱり積極的にアピールするしかないわよ?」

じゃないと取られちゃうしと付け加えて。まぁ、そうなんだけどね。

「もっと頑張ってみようかなぁ。もし、失敗したらまたアドバイスしてよ」

「うん、分かった。でも、遂に有栖ちゃんの初恋が見られるなんて!キャーッ」

さっきから初恋と勘違いして盛り上がっている姉はしっかり制裁した…当たり前だよね?

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「凡人」な俺を「天才」な君が堕とした件 ReMiRiA @ReZeOwO

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