18話 私の過去、私の未来

私は幼少期の頃から天才と言われていたらしい。

3歳で簡単な文章を話せ時計を感覚的に理解し

5歳で様々な才能に目覚め父親譲りの身体能力の高さ故などなど私は恵まれた。

そう、私は_恵まれ過ぎたのだ。

「良く出来ました!本当に天才の子なのね!」

「君のような才能の原石は何十年振りだ!」

そんな言葉を私は聴き飽きるほど耳にし、私は今の環境がどういった場所なのかも何となく理解出来ていた。

だから、私は保育園でも距離を置くことにした。距離を置き過ぎて逆に悪目立ちするから適度に従ったけどね。

保育園では優等生を徹底的に

そうすれば楽出来るから。面倒が減るから。大人の迷惑に掛からずに済むから。多少は許されるから。

私自身、面倒なことは余り好きじゃなかった。だって、面倒になったらボロを出してしまうから。

そうなれば変な目で見られてしまうから。だから、保育園内で私はを演じることに徹した。

そうすれば目立たなくて済むから。だから、退屈で仕方なかった。そんな日常の中で私は彼と出会った。

「何…してるの?」

隅の砂場の適当に城を作っていると彼が話し掛けて来た。確か名前は_。

「今ね、砂でお城作ってるの(見ただけで分かると思うけどね)」

「お城作ってるんだ。凄い、手伝っても良い?」

私が無邪気な女の子を演出すると案の定、彼は笑顔で答えて来た。

「うん。作ろ!」

丁度、暇だった私は簡単に承諾した。自分の立場を理解していてもやはり孤独なのは寂しいものがあったから。

最初は適当に時間でも潰しておこう。そう思った少年こそ早瀬航という人物だった。

最初こそ私は時間潰しの相手とする予定だった。

でも、時間を共にする内に彼なら私の、私の悩みを分かってくれるのではないか。そう思えるようになった。

それが私の幼さ故えなのかはたまた彼の愛嬌故えなのかは分からなかったけど。

 ******************

小学校に入学したと同時に様々なコンテストや大会にも出るようになった。

「3連覇です!おめでとうございます!」

「最優秀賞の受賞おめでとうございます」

「新記録です!」

などとカンペを読むが如く並べられた言葉に私は聞き飽きた。

そして、その度に私の部屋に並ぶ優勝カップや立派な賞状の数は更新された…私はそれを何とも思わなかった。

それは私が麻痺していることへの証明以外にならなかった。

「また、最優秀賞だったらしいな」

「うん。ピアノの大会でね。でも、気にすることじゃないよ」

「渚からすれば大したことじゃないかもしれないけど俺からすれば誇らしくなるな」

「どうして?」

「だって、幼馴染の渚が讃えられるって自慢したくなるじゃん?俺の幼馴染は凄いんだぞってさ」

「そういうものなのかな?」

「あぁ。仮にそれが分からなかったとしても類稀な才能は渚のものだからちゃんと活かせよな」

そう応援してくれたであろう彼の言葉に対し私は思い掛け無い言葉を口にしていた。

「私は…。表舞台から消えるべきなんだよ」

「どうして_そう思うんだ?」

「私は_本当は目立ちたくないんだ。皆の影に居て生きていたい」

「目立ちたくないってことは恥ずかしがり屋ってことなのか?」

「そうだけど_前にも言ったじゃん」

「そうか。それは仕方ないけど_でも…俺は渚が皆の前で称えられる姿は好きだから」

「それは_才能としての私ってこと?」

「天乃渚として好きって話。才能を活かすのは渚次第。でも、そんな渚じゃなくて俺は素の渚を見てるから」

その言葉が私にどれ程の影響を与えたか_それが分からなくても私の心の支えとなったのは間違いなかった。

「航はさ、もっと私に頑張って欲しい?」

「どうして、疑問形なんだよ」

「どうなの?」

「渚の良さを知って欲しい。だけど、無理はするな。辛くなったら止めるんだぞ?」

「うん、ありがとう」

やっぱり私はこの人が好きなのだろう。私は改めてそう思ったのだった。

 ******************

私はあの言葉を受けて様々な賞を取った。

それは私の為だったのかもしれない。でも、何処かで彼の為だと言ってる自分も居た。

だから、私は詰んでしまったのだ。始まりはピアノを辞めたことだった。

急にピアノを弾く楽しさが消えてしまったように感じたからだった。それがキッカケなのだろうか。

他のこともまるでやる気が出なくなってしまった。でも、私の親はそれを許してくれた。

でもその代わりの案を出された。それが、


「受験をすること。分かった?」


「受験って何処を受けたら_?」

「そうね…名浜なんてどう?」

名浜、此処ら辺ではある程度の倍率だった気がする。

勿論、を演じる為にも勉強を怠ったことはなかった。

だから、大丈夫_という訳もなく受験の重さなんて昔から知ってる。だからこそ、私を苦悩させた。

受験の為の時間を増やすのは正直、苦ではない。だけど

「(航と居れなくなるのは嫌だな)」

航はあの様子だとそのまま地元の中学校へ進学するだろうし私も出来ることならそうしたかった。

けど、自分は譲歩受験の案を飲んだ訳だ…どうすることも出来なかった。

 ******************

「辞めたんだってな」

そう切り出されたのは6年の夏だった。その頃の私は塾に身を預けていたので航と帰る日も少なくなっていた。

「結構前だけどね。何時頃知ったの?」

「結構前だよ。そうだな、渚が風邪って言って大会を休み始めた辺り?」

「大分前じゃん」

「キツかったのか。やっぱり」

「うーん、どうなんだろうね?」

「答えたくないなら答えなくて良いけど」

「知りたくないの?どうして辞めたのか」

「無理に言う必要はないよ。それに、渚が辞めたくなったら辞めるべきだと思うし。だって、そうだろ?才能あってもさ、結局やるのってその人自身だし。苦手なことを得意としてもそれを無理してまで続ける必要なんてないよ」

「それは…そうかもね」

「あぁ」

どうして、彼は怒らなかったんだろう。私は今でも不思議に思っている。

だって、私は不本意だけど騙す形になった訳だし。怒っても仕方ないはず。

実際、その時の私もそれは覚悟してたのに_。そう思ってしまう辺り、私はまだまだ未熟らしかった。

「私ってまだまだ子供だよね」

「大人なびてるけど普通に小学生だしな」

それもそうかと当たり前のことに気付くと思わず笑ってしまった。

今、分かることだけどこんな平凡な日常を私は欲していた。でも、そんな当たり前に気付くのは先のことだった。

 ******************

受験日当日。元気で送り出され外へと出た私の視界には彼が居た。

「頑張ってな。受験。全力を出せよ!」

「うん!ありがとうね、航。頑張ってくるよ」

一言交わしただけだったけどその言葉がどれだけ私をほぐしてくれたのだろう…。もう、覚えてないことだけど。

でも、大きな助けになったのは間違いない。そう思えるほど、彼の言葉は私の中で偉大だった。

「間もなく試験を行うので準備しておくように」

試験監督の話を受けて私は息を吐く。周りを注意されない程度に軽く見れば緊張してる人も多く見掛けた。

それはそうだよ。だって普通の人なら緊張すると思う。

「(でも、私は_ううん。取り敢えず、目の前のことに集中しよう)」

 ******************

そうして試験を終えた私は同じ学校から受けた女子と帰っていた。

「どうだった?」

「まぁまぁかなぁ。ちょっと国語で不安要素を残しちゃったけど。大丈夫だとは、思う」

「渚ちゃんは合格してるよ。寧ろ、私が心配だなぁ」

そうかな。と言葉を濁しつつも私は別のことを気にしていた。合格したら当然、行くことになる。

つまり、航とはお別れだ。逆に受験に落ちれば私は航と同じ中学校に行ける。

つまり、自分の手加減次第で合否を選別出来るってこと。出来ることなら、航とは離れたくなかった。でも_。


「試験の結果、上の者を合格したことを証明し入学を許可する」


数日経って送られてきた証書を私は黙って見つめていた。親には誉められた。少しだけ嬉しかった。でも_。

「合格したんだってな。おめでとう」

とメールで届いていた。本当は電話で言って欲しかったけど、多分配慮したんだろうな。

どうして、合格したのか。理由は簡単、だったから。だって、前に言われたから。

自分のことを大事にしろって。だから_私は…。

******************

「もう卒業なんだなぁ」

もっと長く続けば良いのに。心の中で願っても虚しく卒業の日となってしまった。

「俺としてはこの6年間の思い出を大切に生きていくさ」

「お前、本当に小学生なのか?本当は小学生化した高校生なんじゃないの?」

「それは漫画の読み過ぎだ。もっと、現実を見て生きろろよな」

やれやれと呆れる雄斗を見ていると渚に肩を叩かれた。

「あの、航くん」

「どうしたんだ?あ、渚。卒業おめでとう」

「うん、ありがとう。航くんもおめでとう…その、もう殆ど会えなくなるからさ」

「どうしてだ?」

「中学校が離れ離れになるし、時間も合わなくなるから」

「確かにな。でも、渚と2度と会えなくなるよりはマシだろ?」

「え?」

「小学校と比べて会えなくなるのは3年だけだろ?また、高校で同じになれるさ」

「うん、そうだね。でも、航くんは頑張らないと駄目だよ?」

「そうだな。まぁ、渚と同じ高校になれるのなら本気になれるさ」

その言葉がどういう意味なのかは分からない。でも、私が彼を心から好きになったのはきっとその日なのだろう。

 ******************

「え、渚ちゃんって天才じゃない?」

「天乃さんって何でそんな勉に強出来るの?もし、良かったら今度…物理教えてくれない?」

結局、私の立場は結局、別の中学校でも変わらなかった。言うならば_。

「入学式で見た日から好きになりました。付き合ってください」

告白されることが増えた。まだ、5月だけど告白された回数はそろそろ50件を超える。

勿論、私には航しか居ないから全部断ってるんだけどね。

「渚ちゃんって凄くモテるよね。今日で53回目でしょ…?はぁ、私もモテてみたいなぁ」

「私の中では私より尊敬出来る人はもっと居るし魅力的な人も沢山居るけどね」

「それはそうかもしれないけど…」

「取り敢えず、昨日出された宿題を終わらせたら?終わらなそうだったら見せてあげるから」

「ありがとう。本当に渚を友達に持って良かったよ。じゃなかったら…死んじゃう」

「(それは大袈裟な気もするけど。はぁ、私は謙遜的に過ごす予定だったんだけどなぁ)」

最初の実力考査で1位を取ってクラスで目立ち、

クラスマッチでも目立ち、

告白されて目立ち_挙句の果てには生徒会役員となってしまった。

「(何でこうなったんだろう)」

私の全てを知ってくれる彼は居ない。なのに、私はを演じた。演じ続けた。

自分の立場を分かっているから。それは、仕方のないことだと思っていた。だから…彼と再会した時、私は_。

「久し振りだな…って何で泣くんだよ」

「何で_だろうね。泣くつもりはなかったんだけどな…」

雄斗が差し出してくれたハンカチで涙を拭うと航の心配そうな顔が見えた。

「一体、何があったたんだ?渚。大丈夫なのか?」

「そんなに気にすることじゃないけど_。ちょっとだけ、疲れちゃった」

「兎に角、無理はするなよ。後、ちゃんと頼ってくれよ。幼馴染として何でもするからさ」

うん。と小さく頷くと私は彼の手を握った。

「ちょっとだけ、握らせて」

「まぁ…満足するまで握ってれば良いさ」

そう言葉を掛けてくれた幼馴染に私は小さく微笑んだ。

 ******************

「それで、何でこんな状況になってるんだ?」

家に帰った俺は何故か渚を膝枕することになっていた。

「何でもするって言ったから膝枕して貰ってるだけだよ」

「寝心地良くないんじゃないのか?女子のと違って」

「違ってて…されたことあるの?」

横を向いていた渚がふと顔を上げジト目で見てくる。どうやら、今の発言に不審になったらしい。

「いや、ないけど。例えだから気にするな」

「なら良いけど。あ、寝心地は余り良くないかな」

随分と素直に言ったなぁ。と思ってると

「でも、居心地は良いよ。落ち着くし何より_楽になれる」

「学校が随分とストレスになってるようだな。そんなに大変なのか?」

「まぁ、航くんが居ないからね」

「其処まで俺のことを考えてると依存し過ぎな気がするんだが。ちゃんと友達は居るんだろ?」

「居るよ。でも、私は身も心も航くんに依存してるからね」

「それは嬉しいような気もするが_疲れてるなら早く家に帰って寝るんだな」

ちょっと酷くない?と憤慨する渚の髪を梳きながら宥めるように頭を撫でると笑みを浮かべた。

「航くんって私の機嫌取り上手なんだね。ちょっと意外だったな」

「何年間、隣に居たと思ってるんだ?俺は幼馴染として知ってるだけだ」

「そうかな?まぁ、これからもずっと側に居てよね。私の為にも、さ」

そういうと彼女は軽く目を閉じた。

 ******************

「何で擬似告白までして付き合ってなかったの?ちょっと意外なんだけど」

そう私は呆れると溜息を吐く。今はもう終業式も終わり放課後に渚と話をしていたのだが_。

「うーん、私もちゃんと攻めたんだけどね。やっぱり…航くんが鈍感だったからかな?」

「高校でまた同じになったんだからその時にでもちゃんと告白すれば良かったのに」

「私もそれは考えたんだけどね。私の中ではもう告白したしちょっと気が引けたんだ」

「成程ね。だから、渚はあの日の告白は航くんの返事待ちでもあったと。渚も恋する乙女なんだね」

「有栖は私を何だと思ってるの?有栖がするように私も立派な乙女だよ?」

「ちょっと引っ掛かる部分もあったけど…まぁそっか。そういえば_あれから彼氏とはどうなの?」

「航?凄くカッコイイし愛嬌あるし。見てるとドキドキする。今も変わらず良縁だね」

「それは、随分と幸せそうだね。まぁ、それもあって本当に渚は丸くなったのかな?」

と本音を漏らした。あの日まではちょっと固かった感じだったのに今ではこんなに丸くなったなんて。

まぁ、大勢の前では凛としてるけどそれでも親しい仲の人と既にゆるゆるになるくらいには変わった。

「(人が恋をしたら変わるって本当なんだなぁ)」

「どうしたの?急に笑っちゃって」

「渚も前と比べて随分と変わったなぁって思ったらちょっとね」

「私が変われたんだから。有栖もきっと変われるよ。だって…知ってる?」

「え?」

「私と航。まで行っててよそよそしかったんだよ?」

あの関係って何なの?と渚に聞く前に航と雄斗が教室に戻ってきた。

「待たせちゃったな。帰るぞ、渚」

「別に急がなくても大丈夫だよ。有栖ちゃんと喋ってたから。あ、今日は家に寄っても良いよね?」

「まぁ。今日は親も遅いし暇だったしな」

「ありがとう。じゃあね、2人共」

「あぁ。家に帰ったらちゃんと言ったことやるんだぞ?航」

「それはちょっと分からないけどな。まぁ、やるだけやってみるわ。正直_不安だけどな」

と言葉を濁していた。自分たちが話している間にどうやら、彼方でも何かあったらしい。

「あ、有栖ちゃん」

どうしたの?と廊下へ出た渚が再び教室に戻ってきた。私に何か用があるらしい。

「渚ちゃんも、私みたいにちゃんと素直になってね」

そう耳に囁くと逃げるように去って行った。どうやら、唯で帰るのは許さなかったらしい。

「唯では転ばないってことね…。まぁ、あの子らしくて好きだけど」

「どうしたんだ?」

「何でもない。でも、渚ちゃんのことは_」

そう言い掛けて私は黙ることを選択した。その様子に雄斗は疑ってたけどね。

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